「手荒になってしまいましたが、あらかた捕まえましたね…」

「そうだね。静かになったし…これで全員かな」


氷漬けにされたり、恐怖に怯えている海賊さんたちに少々同情しつつ見回していると

なんとか助けることのできたわずかな村の方たちが遠慮がちに弱々しい声で話しかけてきた。


「あの…まだ、ファナティス神父様が…」

「神父様?」

「この先の教会の神父様で…海賊たちも一部が教会に…」

「!」


その言葉にライフルを肩にかけて、教会の方に走る。

クザンさんが引き止める声が聞こえた気がしたがそれどころじゃない。

虫の知らせ、というのかな?

誰より早く行かないといけない気がしたから。


***


「(ここですね…)」


村の奥にあった森の中、木漏れ日に包まれた、妙に静まり返った教会にここだと確信を持つ。

本当に人がいるのかさえ怪しい、そんな静けさにほおに冷や汗が伝う。

緊張で震える手で、扉を開け放った。


「海軍です!大人しく投降して……!」

「…海、軍…?」


むわっと血の匂いが香る。

ゆらりと薄暗い教会の真ん中に大きな人影が動いたのが見えた。

海賊ではなさそうだ。

カツン、と靴音と共に、窓から入ってくる光の下に出てきた人は

かかっていただろう真っ赤な大きな十字架を引きずり、その綺麗な姿を同じく真っ赤に染めていた。

よく見れば長椅子の足元から刺青のはいったぴくりとも動かない腕が見えている。

この人が、やったんだろう。身を守るために。

その背には、物語の中の悪魔のような黒い羽。


「っ…」

「…神へ祈っても、神は私を救ってはくださらなかったのです…だから私は、悪魔をこの身に宿らされる羽目になり、こんな姿に…」


懺悔でもするように私に語りかける彼は、なにか大切なものを見失ってしまったように見えた。

ずっと見ていたものを亡くしてしまったような、そんな目をしていたから。


「……神に全て捧げてきた私を、神は助けてくださらなかった…神がなにも救わないなら、私は、今までなんて無駄な祈りを…」

「…無駄じゃ、ないと思います」


無意識に口から言葉がこぼれ落ちた。

神父さんが訝しげに私を見る。


「無駄な祈りや願いなんかありません…助けを祈る、願うから私たちは助けにこれたんです」

「けれど神は、なにもしてくれなかった…!!」

「それは…人を救うのは、同じく人が、するべきことだからではないでしょうか…?」

「!…人を…人が…?」

「…はい…だから、貴方の願いや祈りは私たちに届きました…」


もう、大丈夫ですよ。助けに来ました。

そう笑いかけて、血のついた彼の手を両手で握れば、神父さんは緊張の糸が切れたのか私を抱きしめて泣ながら崩れ落ちた。


「っ…そうか…貴女が私の…」

「神父さん…?」

「(私の…真の聖母(マリア)…!)」


求めよ、さらば与えられん

(アヤ!無事…ってなにその抱きついて気絶してる羽根生えた男…血まみれだし)
(神父さんですよここの…どうやら教会の中に安置されてた悪魔の実を無理やり食べさせられたみたいで)
(海賊はアヤが…?…いや、そんなわけないか…)
(はい…どうやらこの人が能力でやったようで…)
(ふぅん…まあとりあえずこいつは医療班に任せよう)
(わかりました!)


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