とくとくと、心臓が鳴る。

私は今から人生始めてのことをしようとしてるから。

いつも以上に緊張する。


「(ヴェルゴさん…)」


名前を唱えるだけで、胸がぽかぽかとあったかくなる。

始めて出会った日からなにも変わらない。

そしてこの気持ちは初恋なのだと知った。


「(…だから、今日言うんだべ)」


早くこないかな、と執務室の中で待っていると、軽いノック音のあと、扉が開いた。


「部長…ただいま」

「ヴェルゴさん!おかえりなさいっ!」


部屋に入った彼に駆け寄れば、抱きしめてくれた。


「相変わらず、元気そうだな」

「えへへ、私はそれが取り柄ですから」

「なによりだ」


薄く笑い、私の体を降ろしてソファに腰かけた。

私もそれを見てとなりに腰かけ、コーヒーを注いで手渡す。

そして少しばかりの、二人きりの穏やかな時間を過ごす。

するとヴェルゴさんがしばらくして口を開いた。


「それで?今日は、話したいことがあると聞いたが…」

「あ…はい…そうなんです…」


カップを置いて、ソファの上に座ったまま姿勢をただす。


「真剣に…受け止めてくださいね?」

「…当たり前だろう?お前のことを俺が真剣に受け止めなかったことがあったか?」

「…いえ。その言葉を聞けて安心しました…」


ほっ、と息を吐き出してから、ソファの上で膝立ちになってヴェルゴさんに近づいてサングラスの奥にあるだろう見えない瞳を見つめる。


「部長…?」

「…ヴェルゴ、さん…」


どうしよう、今になって緊張してきた。

でも、大好きなんだって伝えたい。

頭を撫でてくれる優しい手も、低い穏やかな声も、紳士的な態度も

ぜんぶひっくるめて、貴方が大好きなんだって私は伝えたい。

だからお母さんが昔言ってたとおりがんばるの。

緊張と不安で震える自分を押さえつけて、目をとじながら自分の唇をヴェルゴさんの唇に近づける。


「…大、好き…」


唇が触れ合う手前、震える声でそれだけを絞り出した時、ヴェルゴさんが動いた。

それにより唇が触れ合った。


「!んっ…」


ヴェルゴさんの手が背中に回り、そのままソファに身体をやわらかく倒された。

少しして、触れるだけのキスをした唇は離されたが、予定とはずれて、顔が火照る。

目の前にあるヴェルゴさんの顔もまともに見れなくて、視線をさげて、まごまごする。


「あ、あの…わ、私…っ」

「…部長…年上の男の唇を奪おうなんて、悪い子だな」

「あう…だ、だって私…貴方がす…、んっ」


好きだから、と紡ごうとしたらまた軽くキスをされた。

恥ずかしくて固まると、ちゅ、と音を立てて唇が離れていく。


「…そういうのは、俺からさせてくれ」

「ふぇ…?」

「部長…俺もお前が好きだよ…」

「!…本当、ですか…?」


ふってきた優しい言葉に、恥ずかしさ以上に幸せな気持ちになる。

気持ちが伝わるというのは、こんなにも幸せなことなんだ。


「…ああ…これからは恋人だな」

「!…は、い…」


へにゃりとしまりなく笑ったら、またキスを落とされた。


緩やかに落ちて

(指揮にかかわるから二人きりの秘密にしよう)
(はい、わかりました)
(いい子だ…アヤ)
(あ、名前…!)
(…恋人だからな)


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