「…アヤ、今ちぃと構わんか」

「?はい。ひと段落したので大丈夫ですよ」


珍しくサカズキさんが、自分から私を呼びにきた。

なにかしただろうか?と思いながら答えれば、ついて来いと抱き上げられる。

どうやら叱られるというわけではないようなのだが、ますますなんなのだろう。


「なにかあるんですか?」

「来ればわかる」

「?」


教えてくれる気はなさそうだ、と思いながら腕の中で大人しくしていた。


***


「わあ…!綺麗なお庭…!!」


海軍本部にほど近いマリンフォードの一角、茂った蔓の絡んだ 白い鉄格子で囲われた場所。

同じ白い格子の扉を開けた先に広がっていたのは、青々とし、整えられた綺麗な草花。

それから、やけに懐かしい匂いだった。

サカズキさんに降ろしてもらい、少し敷き詰められて咲く花畑の中を歩いてみる。


「この土の匂いって…」

「気づいたか…お前の島の土と同じものじゃ…それから、まだもう少し奥があるけェ行くぞ」


赤犬さんに手を引かれ、歩調を合わせてもらいながら更に庭の奥の方にすすむ。

すると、開けた場所に見えてきたものに思わず言葉を失い、足が止まった。


「…あの小屋…!」


私の実家の外観によく似た小さなログハウスがあった。

その隣には、懐かしい葡萄棚。

優しい子供の頃の思い出が胸に浮かび、締め付けてくる。


「…お前がいた支部から話を聞いて、似せて見たんじゃが…気に入ったか?」

「…サカズキさんが、この庭を…?」


どうして、と振り返ればサカズキさんは、帽子をいつもより目深に被って、僅かにだけど頬を赤くしていた。

珍しい照れたような表情に、少し目を奪われる。


「…お前が、故郷を恋しがっていたからの…少しでも慰めになればと…」


そう、ぼそぼそと言うサカズキさんに驚くと同時に涙が滲んだ。


「っな、なぜ泣く…!?何か気に食わなかったか…?」

「ち、違います…!ただ、気持ちが嬉しくて…っ…」


こぼれていく涙を拭いながら言えば、優しく抱きあげられた。


「アヤ、頼むから泣くな…ワシは慰めるなど慣れとらんのじゃ…」

「ご、ごめんなさい…でも…ありがとうございます…」


声から伝わってくるサカズキさんの戸惑いを感じ

それにより締め付けられた心があったかくなるのを感じながら、涙を耐えて微笑みを返した。


「…構わん。この庭はお前にやる。好きにせェ」

「いいんですか…?」

「…お前のために作った庭じゃけェ、16の誕生日プレゼント代わりと思え」

「…はい…本当にありがとうございますサカズキさん…大切にしますね」


切なさと愛しさを感じさせるこの空間を、宝物にしようと思った。



愛しのエデンを

(最初に私がこの庭園で咲かせた花は、サカズキさんにあげますね)
(…なら赤い薔薇を一輪くれんか)
(じゃあ、明日にでも薔薇の苗を買ってきますね)


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