「アヤちゃんはさ、初恋とかしたことあるのかァい?」

「え、初恋ですか…?」


お休みの日、ボルサリーノさんの膝の上に座らせられながら髪を梳かされていたら、いきなりの質問。


「うん、アヤちゃんも女の子だからどうなのかねェって思ってねェ〜」

「うーん……」


初恋、その言葉に少し考えこむ。

海軍にくるまでは、母のことや家のこと、それから仕事でいっぱいいっぱいでそれどころじゃなかった。

恋愛なんて、考えたこともなかった。


「(でも…)」


最近いつも会うのが楽しみな人はいる。

会えないとさみしくて、次会えるのが待ち遠しくなる。

これは恋なんだろうか?


「アヤちゃん?」

「…恋っていうのが、まずあんまりわからなくて」

「おォ〜なるほどォ〜…そうだねェ〜恋はァ相手のこと考えるだけで一喜一憂したりすることかなァ〜」

「一喜一憂…」


まさにその状態だ。

ならやっぱりこれは恋なんだ。


「…それで、初恋はあったのかなァ〜?」

「んー…なかったですかね。(今までは)」

「おォ〜…なるほどねェ〜」


よかったァ、と何故かそう言いながら梳かしたての私の髪を弄るボルサリーノさんの手を感じながら

頭の中には、たった一人のことだけが浮かんでいた。

私を抱きとめて助けてくれた、紳士的で優しい人。


「(ヴェルゴさん…)」


初恋だと気づいてしまった途端、すごく会いたくて愛しくてたまらなくなってしまった。


「(好きなんだな私…)」


早くまた会いたくて、たまらなくなった。



初恋は駆け足で

(アヤちゃん、どうかしたかィ〜?)
(あ、いえ…初恋について考えてただけです)
(そっかァ〜…まあ焦る必要はないからねェ〜)
(はい…でも好きな人ができたら迷わず口にキスしなさいって母が昔…)
(おォ〜…すごいお母さんだねェ〜)


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