「…」


目が覚めてすぐ、布団をはいで見えた光景に目を丸くした。


「…真っ赤…」


そう、寝ていたはずのシーツが真っ赤に染まっている。

とても鉄くさい匂いにすぐに血だとわかる。

パンツもズボンも、いやにぬるぬるしてるあたり、私から出た血なんだろう。


「(とりあえず着替えてから誰かに…)」


自分になにが起きたのかよくわからないが、張り付いて仕方ないのでズボンと下着をせめて取り替えようと

半分下に下げた時、扉があいた。


「アヤ、起きちょるなら…、………」

「あ…」


入ってきたのは赤犬さんで、私の姿を見るとその場に固まった。


「あの、赤犬さん…見られてたら困るんですが…」


血で真っ赤な体の下部に視線が固定されたままなのを感じ、困って丈の長めのパジャマの上をひっぱってなんとか下を隠しながら言えば

赤犬さんは正気を取り戻したらしかった。


「すまん…しかしアヤ…お前…(なんちゅう格好を…!!)」

「すみません…なんだか朝起きたら血だらけで…」


入ってきた赤犬さんにまごまごしたまま言えば、赤犬さんはなにかに気づいたような顔をしてしゃがみこんで視線をあわせてきた。


「……初潮か?」

「ういしお?」

「…(そうか、学はないんじゃったな)」


病弱な母親のために朝から夜まで働いていた娘だ。

学校など行けるわけもない。

性的なものに触れる機会も少なかったんじゃろう。


「…アヤ、それは病気ではないから安心せェ。今おつるさんを連れてくるからまっちょれ」

「?わかりました…」

「それまで絶対その格好で人を部屋に入れるなよ」

「い、いれませんよ…」


こんなだらしない姿で人をいれる訳がない。

『ういしお』だかなんだかわからないけど、血だらけだし殺人現場みたいだし。

そう思いながら、赤犬さんの背中を見送った。


***


「生理…って言うんですね。びっくりしました」

「アヤ、アンタ生理もしらなかったのかい?」

「はい…初めてなりましたし…こういう知識は教えてくれる人もいなかったので、疎くて」


赤犬さんが呼んでくれたおつるさんに、これがなんなのかの説明を聞き、ナプキンというやつを頂きながら、対処の仕方を教えてもらえば

おつるさんは驚いたような呆れたような顔をした。


「母親にも教えてもらわなかったのかい?」

「はい。母はいつも病気で伏せがちでしたから…」

「なるほどねぇ…まあでも、別に病気じゃないから安心しな」


その言葉とおつるさんの撫でてくれる手に安心し、はいと頷く。


「大人の女に一歩近づいた証だからね」

「大人…わかりました」

「男共に言いにくいことがあったらちゃんと言うんだよ」


おつるさんの気遣ってくれる言葉に、祖母がいたならこんな感じなのだろうかと暖かさを感じた。



大人の一歩

(その日、赤犬さんクザンさん、ボルサリーノさんからお赤飯を頂いた)
(おめでたいことらしいけど、でも毎月血が出るなんて、正直嫌だべなぁ)


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