「ストロベリーさん大丈夫ですか…?」
「大した怪我ではありませんから」
タイヨウの海賊団との戦闘で怪我をしたストロベリーさんの長い頭に包帯を巻くのを手伝い問えば、心配するなというように笑われた。
しかし怪我は酷いもので、ボルサリーノさんが到着したということもあり
先にストロベリーさんには本部に帰還して療養していただくことにしたのだった。
***
「…大丈夫でしょうか、ストロベリーさん…」
「平気だよォ〜あれくらいで死んじまうような男ではないさァ〜」
「そう、ですよね…」
「それよりィ〜…どうするかねェ…」
「追うにも、海の上では分が悪いですしね…」
ボルサリーノさんのそばで辺りを見回していると、海の中から黒い影が飛び出してきて、悲鳴をあげる間もなく私にとびかかってきた。
「っ!」
どっとそのまま後ろに仰向けに倒れ、馬乗りになられる。
ノコギリ鮫のような鼻に視線が向きタイヨウの海賊団の一人であるアーロンさんだと頭の中で適合させるより早く、すぐに憎しみと怒りに染まった目の方に視線が奪われた。
「!アヤ部長ォ!!」
焦る海兵たちの声と裏腹に、私はその目に浮かぶものが気になってしかたなかった。
「(泣いて…?)」
「てめェら人間のせいで…!殺してやる!!」
ぎらりとした殺気に、今が危機的状況だと思い出す。
「死ね!!にんげ…っがは!!」
殺されると感じた瞬間、真上からアーロンさんが消えた。
いや、正確に言えば私の隣にいた人に光の速さで蹴り飛ばされたらしかった。
「おォ〜…わっしの可愛い上官にィ…手を出してんじゃねェよォ〜…」
相変わらずのんびりとしているが、聞いたことのないほど底冷えした声音と
アーロンさんを相手に、一方的な戦い方を繰り広げるボルサリーノさんに味方のはずなのに体を起こしながら少し息を飲んだ。
だがすぐにそれらを押しやり、殺さないように!と声をかける。
「その男はタイヨウの海賊団船員のアーロンです!」
「ほォ〜…おめェがアーロンかァ…何しに来たんだァ…のこのことォ〜…」
がっ、と虫の息にしたアーロンさんを踏みつけたボルサリーノさんが彼に問いかけた。
「ウウゥ…!タイの大アニキを売った人間どもを皆殺しにするんだよ!通報した島にも行くぞ!フィッシャー・タイガーは死んだ!!お前ら下等種族に殺されたんだ!」
「!…お亡くなりに…」
やっぱり向こうも深手ではあったのか。
抵抗にあい、仕方なかったとはいえ、人を一人死なせた事実に複雑な気持ちになり、少し目を伏せた。
「(だからこの人は、泣いてるんだ…)」
私達にとっては敵でも、この人にとって彼は大切だったんだろう。
「部長ォ…あんまり入れ込みなさんなァ〜…」
「!…はい」
「…まぁしかしお前ェ、わっしらと来てもらうよォ…」
「!!」
「色々とォ吐いてもらうよォ…フィッシャー・タイガーの共謀者と噂の、あの"海の魔女"についてもなァ…」
「っ…くそ…!!」
「…("海の魔女"…)」
海軍においてその名はただ一人のことを指す。
魂を食らう娘。時を忘れた女。
他には異名、呼び名は様々だが海軍では海の魔女。
この世の全てーー過去も今も、未来すら知っていると噂される
政府が追い続けている、海を流離う不老不死の情報屋
アルナ・エレシア
海を生きる人たちの中で、彼女を知らない者はよほどのモグリかひよっこかと言われるほどの伝説の大物だ。
そんな人が、フィッシャー・タイガーの奴隷解放において共謀したと噂がある。
「…本当に彼女も、関わってるんでしょうか?」
「さあねェ〜……まあでも関わってるだろうねェ〜
あの魔女は自分が気に食わないことには、とことん首を突っ込むからよォ〜」
「…そうなんですか…」
「まあ…魔女の考えなんざ考えるだけ無駄だしよォ〜…とりあえずこいつを連行しようかァ〜」
「は、はい!ではとりあえずこの海域担当のG-2支部に連絡を入れてきますね」
目の前のことに集中しようと、仕事に頭を切り替えた。
一つ太陽は海に沈む
(そして数日後、アーロンはインペルダウンへ収監され、)
(フィッシャー・タイガーの事件はとりあえず幕を閉じた)
(今回はお疲れ様ァがんばったねェ〜)
(はい、ありがとうございます…)
(…けどねェ、アーロンに殺られかけた時に何を惚けてたんだィ〜?)
(…あれは…すみません…あの時は殺気以上に、涙が気になってしまって…)
((この子は…他人を想いすぎるなァ…)…すごい心配したんだよォ?)
(ごめんなさい…もうないように気をつけます)
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