「アヤ部長、お願いします」
「…はい」
「…大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、ストロベリー少将…私も、もう将校なんです」
タイヨウの海賊団より先回りし、フールシャウト島に上陸してすぐ、奴隷の少女の故郷である島の村に向かった。
そして、突然の海軍の上陸に驚いただろう村の人たちを海兵さんたちに集めてもらう。
まだ迷いがないわけではない、でも私もしっかりしなければ。
私も、もう海軍将校の一人なんだ。
一歩出て、困惑する大人の方たちを前にぴしっと立ち、今日ばかりはしっかりと羽織った正義のコートを風になびかせて口を開いた。
「…皆さん、突然申し訳ありません。私は、海軍本部、情報伝達部部長のショウガン・アヤと申します」
そういえば、村の人たちの空気がざわりとしたのを感じた。
それも仕方ないことだろう、と内心苦笑を漏らす。
私のような子供が部長なんて、にわかには信じがたいだろうから。
「…戸惑われる気持ちはわかりますが、この後ろの方々が、私の地位を証明してくれるでしょう」
そう伝えれば、村の人たちは本当らしいとなんとか信じてくれたらしい。
それを見届けて、私はためらいをさとられないように、本件に入った。
「実は、今回村の皆さんにお願いをしたくーー…」
***
「…はあ…」
「ご立派でしたよ、アヤ部長」
「ありがとうございます…」
タイヨウの海賊団が到着するまで軍艦で待機するために初仕事を終えて戻ってくれば、ストロベリーさんが優しい表情で労わるような言葉をかけてくれた。
迷いはもちろんだが、緊張と不安でいっぱいだったから、身内からの優しい言葉が純粋に嬉しかった。
「あ、ボルサリーノさんにうまくいきましたって連絡しないと…」
そう、村人たちとの交渉は上手くいった。
最初は戸惑っていたものの、やはり身内の娘を引き合いに出されたら、すぐに承諾してくれた。
娘さんの恩人さんであるフィッシャー・タイガーが世界的な犯罪者だったこともあるのかもしれない。
いや、それ以上の恐れを魚人の、といった時に感じたけれど…あれはなんだったのか。
「…ストロベリーさん」
「?どうかしましたか?」
「……魚人の方って、怖がられてるんですか?」
「まあ…差別は色濃いですよ。人間と魚人は見た目が違いますから」
「差別…」
さっきの嫌な感じはそれかな。
でも私は、差別感情という蔑みの感情より、恐れている、という感じを受けた。
妙なミスマッチ感に首を捻りつつ、早く連絡をしなければとでんでん虫をかけた。
「…あ、ボルサリーノさん?」
『おやァ〜…アヤちゃん、うまくいったかい〜?』
「はい、こちらは手筈通りいきました」
『おォ〜〜…アヤちゃん頑張ったねェ〜』
でんでん虫越しの自分の迷いだらけのうしろめたい行為を肯定してくれる優しい声に、自然と緊張していた心が少しゆるんだ。
「(…罪人のフィッシャー・タイガーを捕縛するためには…仕方ない、ことなんだ…)」
いくら、その罪が罪とは思えなくても、世界はそれを罪と認めているなら、執行する私たちは執行しなければならない。
そう言い聞かせて、ぎゅっと目をつむった。
『…アヤちゃん?大丈夫かい〜?』
「大丈夫です…」
『…なら良かったよォ〜…それからわっしはフィッシャー・タイガーが来る前にたどり着けなさそうだから、捕縛はストロベリー少将に任せるよォ〜
アヤちゃんは戦闘になったら危ないから、軍艦でわっしの到着を待機しててねェ〜』
「は、はい…!」
自分の戦闘力の低さは理解しているので、素直に頷く。
『いい子だねェ〜…それじゃあ頼んだよォ〜』
そしてでんでん虫はそこで切れた。
「…ということです…ストロベリーさん」
「はい…聞いていましたよ」
戦闘、その言葉に少し実感がまだ湧かないながら、自分が出るわけでもないのに緊張した。
私はもう、海軍将校
(それからしばらくして少女を連れたフィッシャー・タイガーが現れたのだが、)
(抵抗されたらしくストロベリーさんたちが深手を負わせたらしい)
(だが他のタイヨウの海賊団クルーに邪魔され、取り逃がしてしまった)
(その大捕物があったすぐあとくらいに、ボルサリーノさんは到着した)
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