「アヤ、お前には経験が足りない。だから今回は少し将校について、実地任務に同行してもらう」

「は、はい!」

「それで、内容だが…あとの説明はボルサリーノから聞け」

「了解しました!」


事務仕事に慣れてきた頃にやってきた上からの指令に、敬礼をとって答えた。


***


「はあ…タイヨウの海賊団絡みの任務ですか…」

「おやァー…流石に概要は知ってるかい〜?」

「はい…海軍の資料、情報は一通り頭に入れてますから」


確か、天竜人の奴隷解放の首謀者である魚人、フィッシャー・タイガーが船長の海賊団…

ここ数年ボルサリーノさんとストロベリーさんらが主体で追っている件だったはず。


「でもなんで私がついていくことに…?」

「やっぱり自分がどういう組織にいるのかはさァ〜知っとかなくちゃいけないからねェ〜」

「まあ、確かに…」

「だけどアヤちゃんは強くないからねェ〜…とりあえずお仕事見学ってことでわっしらと任務ってことだろうねェー」

「なるほど…お邪魔にならないように頑張ります」


じゅっ、と葉巻を灰皿に押し付けて消して笑うボルサリーノさんに頭を下げれば

アヤちゃんの方が実質上官なんだからそんなに固くならないでよ、とまた笑われた。

でも、どこのどなただろうと礼儀は大切だと思うから笑われるところなんかないのになと小首を傾げれば

アヤちゃんは可愛いなあと頭を撫でられた。


「?…ストロベリーさんストロベリーさん、私なにか可愛いことしましたっけ?」

「ははっ…アヤ部長がいつも魅力的ということですよ」

「?そうですか…?よくわかりませんが、ありがとうございます」


優しく笑ってさとしてくれたストロベリーさんに、ちょっと照れたけど、同じく笑顔で返す。

まだ子供の私だけど、可愛いとか魅力的とかお世辞でもいってもらえて嬉しくないわけがない。


「…それじゃあアヤちゃん。今回の任務よろしくね?」

「はいっ!」


始めて立ち会う。悪い人を捕まえる瞬間。

ただしいことをしに行く。だって悪い人を捕まえるのが仕事だから。


「(…でも…奴隷解放をした人でもあるんだよね?)」


海賊は悪い人。奴隷解放も大罪。

頭では理解している。

でも内心、奴隷解放はそのほうがほんとはよかったんじゃないかな、と思ってしまう。


「……」

「…アヤちゃん〜どうかしたかい〜?」

「あ、いえ…フィッシャー・タイガーの奴隷解放の罪…って、ほんとに悪いことなのかな…って」


奴隷にされていた民間人たちからしたら、救いじゃ…

私が発した言葉に、少し部屋の空気が張り詰めたのを感じた。


「オ〜…アヤちゃん、わっしらの仕事はそこを考えることじゃないよォー」

「え…」


空気を壊すような言葉に目をあげれば、ボルサリーノさんにひっぱられ、膝に抱えられた。

頭を撫でられながら、頭上から言葉がふってくる。


「…上が正義の上だと命じたことを実行する…これが海兵、ひいては海軍のすることじゃないかい〜?」

「まあ…そう、ですよね…」

「だろォ〜?それにフィッシャー・タイガーは海賊だしねェ〜…わっしらが捕まえることに疑問を抱いたら誰が賊を捕まえるんだい〜?」


…たしかに、ボルサリーノさんの言う通りだ。

私たちは悪に脅かされる力のない人たちの剣であり、盾でなくてはならない。それが海兵だから。

でもなんでだろう。紙面上の情報だけで、捌いていいものなのかと少し胸が痛んだ。

でも、この人は悪い人なんだと言い聞かせる。


「…すみません。おかしなことを言って。もう大丈夫です」

「ならいいけどォー…余計なこと考えてると死んじゃうからねェ〜?」

「っ…はい!気をつけます!」


心に生まれた迷いのようなものから目を背けて頷いた。


芽吹いたもの

(…アヤちゃんを縛るのは、一筋縄ではいかないかもねェ〜)



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