「…本部はどうじゃ?」
私を引き抜きたいと言い出したご本人だからか、休憩中に赤犬さんはよく私を膝の上に座らせるとそう聞いてくる。
だから私も皆さんによくしていただいている現状を、ありのままに答えるわけだが
その度に赤犬さんは眉間の皺を深めて、私の頭を撫でる。
「…上手くやっているならええんじゃ…」
「…そうは見えませんけど…私、なにか怒らせるようなこと言いました…?」
不機嫌な赤犬さんを見ているのは嫌なので、おずおずと問いかけると、私を抱く腕の強さが増し
見下ろしてくる赤黒い瞳と、視線が交わった。
「…お前は、わしと周りの人間…どちらのほうが好きじゃ?」
「え…?ど、どちらも…皆さんのこと…大好きですよ…?」
とつぜんの質問に戸惑いつつ、選べないし、全員好きだと言えば、不満そうな顔をされた。
そんな顔されても…、あ!
「で、でも赤犬さんには少し、感謝もしています!」
「…感謝?」
「はいっ!赤犬さんが私を見つけていなかったら、私は皆さんと会うこともできませんでしたから…」
そう言って笑えば、赤犬さんは少し驚いたようななんとも言えないような表情を浮かべてから、また私の頭を撫でた。
「アヤ…お前さんは…眩しいのォ…(出会った日となにも変わらん)」
「?」
「白い…」
赤犬さんは赤黒い目を細めて、大きな身体を丸めて私の唇の端にキスをしてきた。
とつぜんのことに目を丸くすれば、好きな人間にすることだから深く考えるなと撫でられた。
「好きな、人間…」
「挨拶みたいなもんじゃ」
「なるほど…(家族のキスとか、そういうことかな?びっくりした…)」
唇じゃなかったしね。
唇は本当に大好きな人ができた時のためだって近所のおばあちゃんが言ってたし。
一人納得していると、赤犬さんがなにか思い出したように言ってきた。
「そう言えば…お前、ボルサリーノとクザンのことを名前でよんでるんじゃな」
「あ、はい…お二人が名前でいいと言ってくださったので…」
「…そうか。なら、仕事の時は今のままでいいが、プライベートで二人の時はワシのことも名前で呼べ」
「え?」
「奴らと違って、ワシは公私は分ける主義じゃ」
「は、はい…わかりました…なら、今みたいに二人きりの時は、サカズキさんとお呼びしますね…?」
「…ああ、それでいい」
不可思議に思いながらも問いかけたら、赤犬…いえ、サカズキさんがとても満足そうに笑ったので
私もなんだかそれが嬉しくて、にっこりと笑い返した。
経過報告
(ワシをたぶらかせる女はお前だけじゃ)
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