「わあ…おいしいです!」
「ぶわっはっはっ!そうじゃろそうじゃろ?」
パキッと小気味いい音をたてて、ガープさんからもらったお煎餅を頬張る。
お醤油の味がとってもいい感じだべ。
ガープさんが毎日のように食べているのも頷ける。
「今度どこで買ってるか教えてくださいね」
「もちろんええぞーむしろアヤちゃんになら買ってやる!」
「ふふ、お気持ちだけいただいておきます」
いつもまるで自分の孫のように可愛がってくれるガープさんは、とても優しい。
「アヤちゃんは遠慮深いのー」
「そんなことありませんよ」
「自分の爺ちゃんだと思って甘えてくれていいんじゃぞ〜?」
「あはは…本当のお孫さんに怒られちゃいます」
苦笑して答えれば、気にせんでええのにと拗ねられてしまった。
いつもいつもフランクな方だ。
固い海軍の中でも、いつでも自分らしい。
それでたまにセンゴクさんに怒られているけど。
それでも私はこの人のこういうところも美徳だと思う。
「ガープさんのお孫さんが羨ましいです。ご家族思いの素敵なお爺様で」
「アヤちゃんはわかってるのー!孫だけじゃなく、息子と娘にも見習わせたいわい」
「えへへ…」
褒めちぎられて少し恥ずかしい。
でも羨ましいのは事実だから、笑って受け止めておく。
「(…お母さんは、元気になったかな…)」
しかし家族の話になると、どうしても思い出してしまう故郷の家の匂いと、母の顔。
海軍に入ってから一度も連絡を交わさないで、お金だけを送り続け、二年。
あの妙に頑固な母は、私の仕送りを使って、ちゃんと病気を治して元気でいてくれているんだろうか。
「……」
「…ん?どうしたアヤちゃん、浮かない顔をして」
「あ、いえ…故郷の母のことを少し思い出しまして」
「ああ…病気をしとる方か」
「はい…どうしているか、心配で…」
「むぅ…そうじゃのう…(できるもんなら、故郷に里帰りさせてやりたいが…)」
いくらそれなりの自由が利くワシでも、この子を自由に外に連れ出すことはできん。
「(…こんな若い子に背負わせんでもよかったろうに…)」
「…すみません。困らせるようなこと言いましたね」
ガープさんの難しい顔を見て、空気を変えようとぱっと笑う。
「私は役職についたばかりなのに、仕事をそんな長期で休むわけにはいきませんもんね…でもきっと母は大丈夫です。心根の強い人ですから」
私の心配はきっと杞憂に終わるだろう。
きっとあの葡萄とワインの匂いが染み込んだ、小さな木造りの家で母はいつものように強がりながら生きてる。
喧嘩なんかまるでなかったように、私の帰りを待ちながら。
そう自分に言い聞かせていると、ガープさんはわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。
「アヤちゃん、不安になったら頼ってくれていいんじゃからな」
それがなんだかあったかくて、少し泣きそうになったのは、私の秘密だべ。
寂しい、とか
(だから爺ちゃんだと思っていいんじゃ!)
(え、あ、それは…)
(ほれ、爺ちゃんと呼んでみろ!)
(は、はい!…お、お爺ちゃん…?)
(まだ遠慮しとる!もう一回!)
(…なにしてんの、あれ?)
(新しい絡まれ方してるねェ〜)
(……アヤになにさせとるんじゃァあの人は…)
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