最近、やけにアヤのことが視界に入る。

いや、前から見てたし、むさい海軍の末っ子ちゃんだからさ可愛いなあとかは思ってたし

たまに危なっかしいから、注意はしてたけど

最近は、見ない日はなくて、気づいたらいつも視界の中にいる。

こんなにあの子、俺のそばいたっけ?


「馬鹿じゃねェーのかい〜?クザンがアヤちゃんのこと目で追ってんだよォ〜」

「あーなるほど、そっちか……って、え?」


話を聞いてもらっていた休憩中のボルサリーノの言葉に納得しかけたが、待て待てと振り替える。


「たしかにアヤは可愛いがな、俺はロリコンじゃねぇぞ。それに俺が、好きな子目で追うとかガキみてぇな恋…」

「オ〜…誰も恋愛感情とは言ってねェよォ〜」

「!…………」

「自爆したねェ〜」


馬鹿だねェと遠慮なく嗤う、食えない先輩をじとりと睨めつけ、目の前のお茶請けらしいクッキーを口にする。


「…ん?なにこれうまっ!」

「美味しいでしょ〜?君の気になるアヤちゃんが焼いてくれたんだよォ〜。お料理好きなんだって〜いいお嫁さんになるよねェ〜」

「たしかにクッキーは美味いけど、そのなんか言いたげな含みのある言い方やめてくんない?」


たしかにクッキーは甘さ控えめですごい食べやすいし美味い。今度俺もなんか作ってもらおう。

だがそれとこれは別の話。

大体アヤと俺、何歳違うと思ってんだ。サカズキと一緒にしないでよ。

大体100歩譲ってアヤを女として好きになったって…ってなんで仮定まで考えだしてんだ俺。


「違うって、絶対ないって」

「なにがないんですか?」

「いやそりゃ俺がアヤのこと……ってアヤ!?」

「?はい、私ですが」


いつの間にいたのか、真横で俺を不思議そうに見上げてくるアヤがいた。


「オ〜…アヤちゃんじゃねェのォ〜…どうしたのよォ〜?」

「あ、すみません。お声をかけたんですが返事がなかったので勝手に入って…今度の任務の詳細の書類を渡しに…」

「なるほどねェ〜…お疲れ様〜」

「いえ…私こそ、ご歓談中にすみません」


ボルサリーノに書類を渡しながら、素朴な笑みを零すアヤをちらりと見る。

子供らしい無邪気さに、持ち前だろう明るさと気だての良さ。

それから歳の割りに、大人びた上品さと穏やかな雰囲気は、確かに好感を持つし、いつも癒されている。


「あ、クッキー美味しかったよォ〜…料理上手いんだねェ〜」

「えへへ…お料理や家事は昔からやってたことですから…それなりには」


…しかも料理上手だし、家事も好きみたいだし、性格も控えめだ。

確かにその辺の女より確実にいい女だよ、子供だけど。

年頃の大人の女になったら、きっとモテるだろうな…


「(…あ、なんかそれはいやだ)」


想像しようとした途端、そこにたどり着く。

アヤが他の男の隣にいるのはなんか、気持ち悪いもんがある。

こう、アヤが気持ち悪いんじゃなくて、アヤに別の男が無粋に触るのが気持ち悪いし、腹立つ。


「…」

「あ、あの…クザンさん…ホットコーヒーがアイスコーヒーに…」

「え?」

「…クザン、わっしの私物凍らせないで欲しいんだけどもォ〜」


アヤとボルサリーノの言葉に手元を見れば、カップごと完全に氷結したコーヒーがあった。


「!あ、…」

「…珍しいですね、無意識で能力発動させるなんて…淹れなおしてきましょうか?」

「い、いや…いいよ。それよりアヤ、仕事途中なんじゃないの?」

「あ、そ、そうでした…赤犬さんに怒られちゃう…!じゃあ私は失礼しますね…」


思い出したらしく、慌てた様子ででていくその背に

なんとなくサカズキのところにいくのかと思うと名残惜しさを感じて、声をかけた。


「アヤ、」

「はい?」

「あー…クッキーうまかったからさ、また俺にもなんか作ってよ」

「!…ふふ、了解ですクザンさん」


瞬間、はにかんだように笑って、ふざけるように小さく敬礼をしたアヤに目を奪われる。

反則でしょ、それ。

その間にアヤは出ていってしまった訳だが、なんとなく満たされた気がした。

この感情に名前がつけられないほど、俺はやっぱり子供じゃないわけで。


「あー……まじか、俺。嘘だろ」

「やっぱりロリコンじゃねェかァ〜」

「………もういいよ、ロリコンで」


もはや否定できない言葉を受け止めながら、自分の額を片手で抑え、ため息をついた。



その感情は、

(つーか…そういうアンタはどうなのよ)
(おォ〜…好きだよォ〜)
(…それ、どういう意味で?)
(さあねェ〜…想像に任せるよォ〜)


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