早朝の訓練場に発砲音が響く。

この音は、訓練場からほど近い部屋に寝泊まりする海兵たちにとっては

もはや目覚ましがわりとも言えるものとなっている。


「…ふう…」

「やっぱりお前は射撃の腕だけは飛び抜けてるな」

「えへへ…ありがとうございます、ゼファー先生」


射撃訓練用の耳当てをとり、斜め後ろから自分のがんばりを見ていてくれたゼファー先生に微笑む。

本部に来たばかりの頃、訓練中に私の射撃の腕を始めて見初めてくれたゼファー先生は

時間がある限り、こうやって朝方の自主訓練私を見にきて稽古をつけてくれるのだ。

他の一般海兵のように訓練兵時代が短かく、基礎訓練しかできてない私には、それがとても嬉しくて、有難い。


「だがアヤ、お前は銃以外は本当に並だな。タフさと機転が効くところは評価するが、それだけだ」

「はい…わかっています」


私の総合的な実力は、記憶力、狙撃の腕をのぞけば、与えられた地位になど確実に相応しくないだろう。

当たり前だ。

本来なら、一般出の海兵が1、2年で大将と同格、それ以上の権利を手にするなんてことはない。

しかも私は、本当に身体能力は普通で、超人的な力など持ち合わせているわけでもない。

その上、然るべき訓練もまともに受けずにここにきてしまっているわけで

ひとりこそこそと仕事の合間を縫って訓練に励んでも、やはりそうそう伸びない。


「…ゼファー先生、」

「なんだ?」

「今の私は…与えられた地位に、ふさわしい人間だと思いますか?」

「……いや、思わん。お前は弱い」


それでは義務を果たす間も無く、襲われたら真っ先に死んでしまうだろう。

その言葉は厳しかったが、真実を告げていてくれて、とてもホッとした。


「だからお前は、生き残るための努力とふさわしくなる努力を詰め」


せめて身を守る程度の武力を付けろ。

ゼファー先生の言葉に強く頷く。


「…私、実はこんな人生考えたりしませんでした」

「まあ…だろうな」

「でも……私はここにいる…ここにいる以上…私は、やれること全て頑張りたい…だから、」


私も、嫌だななんて甘えてばかりでなく、役目を果たすために少しは強くなろうと思います。


「…どこまでできるか、わかりませんけど…」

「いや、いい心掛けだ…アヤは実直だな。そういう奴は伸びる」


へにゃりと力なく笑えば、ゼファー先生はわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。

ここにきてから、頭を撫でてもらうことが多くなった。

それになんとなく、心地よさを感じながら、海兵として、部長としてここで生きて行く決意を強くした。



少しでも相応しく

(ゼファー先生、これからもご指導よろしくお願いします!)
(ああ、時間がある時には見てやる)
(はい!)
(…なんて素直で、めんどくさくない教え子だ)


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