「…」

「…なんじゃ、アヤ」

「いや、その…」


お菓子をねだりながら本部内をウロウロしていれば、一番こういう日が似合わないというか

こういう日を意にもかけてなさそうな赤犬さんとぶちあたった。

またくだらないことを、と言われそうな気がして見上げたまましばし黙る。


「…言いたいことがあるんじゃったら言うてみぃ」

「な、なら、その…と、とりっくおあ…とりーとです…」


見た目で判断してはいけない。

もしかしたらくれるかもしれない。

そんな一抹の希望をかけて両手を差し出せば、一瞬の沈黙のあとため息を吐き出された。


「…はあ…その頭の白いのは何かと思えばハロウィンの仮装か…」

「そ、そうです…」

「まったく…アヤ、お前はいつまでも子供のような真似をしおって…気がゆるんどる」

「(こ、子供ですもん)…す、すみません」


心の中で抗議するも、口に出せるはずもなく謝る。

ああ、やっぱりこの人にまで言うんじゃなかった。

後悔し俯いて、バカみたいに差し出した手を引っ込めようとした時

急に頭に何か押し付けられわちょっとした痛みと重み。


「ふわっ!?」


びっくりして慌てて頭に手をやり、その重みの正体に触れて手にすれば、高級そうな包装をされた小さめの小箱があった。

書かれてる文字を読むと、どうやら中身はチョコレートらしい。


「わぁ…!」

「…遊んどるのは気に食わんが、たまたま人から押し付けられたもんがあったからくれちゃる。ワシは食わんからのう…」

「あ、ありがとうございます!」


もらえると思っていなかった分嬉しくて、見上げて笑顔でお礼を言えば

赤犬さんは、あまり羽目を外すんじゃないと再三の釘を打ち、さっさと行ってしまった。


「(…まさか赤犬さんからチョコレートもらえるなんて…)」


でも、なんだかちゃんとのっかってくれて嬉しいなあと思い

ふふ、と少しだけ笑って先ほどより軽い足取りでまた歩き出した。


Sweet Passion

(でも赤犬さんにこのチョコレートあげた人…すごい勇気あるなあ)
(……あんなもんを買って渡すなど…ワシは何を考えて…)