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『男女の愛は気持ち悪いな』


温度も抑揚もなく、唐突に吐き出された言葉を覚えている。

集団に犯され、病院のベッドの上に座ったまま俺を見る、死んだような昏い目。

俺を責めるわけでもなく、そう告げた雪。

あの日から心を深雪に埋めた雪に、今更なんと言える。




「ーー千景」

「!…なんだ?」


横で裸体のまま寝転ぶ雪の、俺の名を呼ぶ声に、意識を戻す。


「それはこちらの台詞だ。話を聞いていたか?」

「…またどうせ妹達の話だろう」

「その口ぶり、聞いていなかったな」


…よく喋る口だ。最中はそうそう喘ぎもしないくせに。


「…事後に妹の話はどうなんだ?」

「今更だろう。それより千鶴達がな、この前私のために夕飯を作ってくれたんだ。優しいだろう。羨ましいか」

「別に」

「……そこは嘘でも羨ましいという所だ」


空気を読めと淡々と言われたが、現在進行形で空気をぶち壊しているお前にだけは言われたくない。

しかし気にもせず自分の妹達の話に戻る雪に頭が痛くなってきて、もう寝ろと背を向けた。

すると何を思ったのかすっと話をやめて、俺のことをじっと見つめてくる。

背に当たる視線が痛い。


「… やはり千景とするのが一番いいな」

「……いきなり何なんだお前は」


突然の発言に動揺を隠して振り返り言えば、猫のように身を寄せてきた。


「お前とするのが一番気持ちがいい」

「……」


ならあちこちにいるセフレを切ってこいと言いたいが、それは言ってはならないのが暗黙の了解だ。

醜い嫉妬、愛が故の独占欲を気持ち悪いと言い放つ雪にその台詞を吐けば、関係は終わるだろう。

淀む劣情に気づかれる訳にはいかない。


「…妄言はいい加減にして寝ろ。明日は実験経過の報告だろう」

「わかっているさ、もう寝る。ただ何と無く再認識したから言いたくなっただけだ」


気にするな、と相変わらず温度のない声で呟いて、俺の身体に身を寄せて目を閉じる。

しばらくして聞こえる寝息。

聞こえぬように、ため息を吐き出した。


(この関係に正しさなどなくても)
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