禁煙
抱っこされた時、嗅いでみても最近あの匂いがしない。
代わりにするのは、上品なコロンのいい匂い。好きな匂いだ。
「アヤちゃ〜ん、動物みたいにくんくんしてどうしたんだァい?」
「…煙草」
「ん〜…?」
「煙草の匂い、最近しないなあと思いまして」
吸っているところも見ないし、といえばああと納得した顔。
「禁煙を始めてねェ」
「禁煙ですか?」
「うん〜…煙草吸ってても、もういいことがないのに気づいてねェ〜」
「まあ…たしかに体には良くないですね」
「だろォ?煙たいだろうし、早死にってのも…したくなくなったからなァ」
そう笑って顎を撫でてくる手は優しい。
猫さんや犬さんみたいな扱いみたいに感じることもなくはないけど、気持ちがいいから許せる。
目を細めて体を預ければ、可愛いねェと言ってくれる。
「わっしが死んだらアヤちゃんに看取ってもらいてェなァ」
「…ボルサリーノさんは死んでも死なない気がします」
「やだなァ〜死ぬときはわっしだって死ぬよォ」
現実味の帯びない言葉に、ぎゅーっとボルサリーノさんの首元にすがりつく。
「…だとしても、そういう冗談はいやです。折角お煙草やめたんですから、長生きしてくださいね」
縋り付いたまますんすんと鼻を鳴らせば、ごめんねと頭を撫でられた。
「アヤちゃんがそう言ってくれるうちは死なないよォ…煙草もアヤちゃんが来たからやめたようなもんだしねェ」
「え…?」
「…年齢はどうしたって埋められねェからよォ」
その言葉の中にある意味を察して、また少しずつ、この時間が尊くなる。
「…一緒に長生きしましょう、ボルサリーノさん」
「お〜...プロポーズかい〜?」
「ふふ〜、違いますよ〜」
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