スイートトラップ
この世で一番甘いものは数えたらキリがない。
あら、それじゃあ1番にならないって?
馬鹿ね貴方、甘いものはだいたい同列1位だってわからないわけ?
甘いもの1位群の中に、さらに特別甘いものが存在しているの。
口の中に、いつまでも甘さが残るくらいのね。
***
「ビルディさん、お疲れ様です」
「あら…アヤ部長ご機嫌よう」
砂糖菓子、シロップ漬けのフルーツより甘い甘い正義の匂い。
甘ったるい小さな上官殿にわざとらしく深々と頭を下げる。
「ごきげんよう、です!」
「(相変わらず田舎っ子…)…今日は大将殿たちとはご一緒ではないんですね」
「いつも一緒というわけではありませんよ」
「…ま、そうでしたか。大将方は貴女といつも一緒にいたいんでしょうけど」
「ふふ…そう思ってもらえていたら嬉しいですけど」
ふにゃりと笑う顔に、メープルシロップを舐めたかのような、苦々しい甘さが口内に広がる。
この子の甘さは、甘いと言われても受容され、時に感化する。
それが私は、時に恐ろしい。
正義は、絶対で強固でなければならないというのに。
サカズキ大将の正義のように。
でも、あの大将はうっかり情けなくなった。
まだ意思を変えることはないと信じているけれど、部長に一喜一憂する姿などはただの男だわ。
「…アヤ部長」
「はい?」
「…サカズキ大将に、糖分の取りすぎは控えるようにお伝えくださいな」
「赤犬さんに…?赤犬さんは甘いものをおとりには…」
「うっかり毎日お取りですよ。知らないなら…アヤ部長がお鈍いだけじゃないでしょうか?」
「え…?」
「それじゃあ私は仕事がありますので、失礼しましてよ」
「あ、はい…」
垂らされた蜜のように侵食されないうちにと、踵を返す。
別にアヤ部長が嫌いなわけではない。
たとえ嫌いだとしても、あの子はそれすら受容するだろうから、嫌う意味もないのよね。
でもそれが、逆に私にはやはり恐ろしい。
甘さなどいらないというのに、嫌いになりきれない事実が。
(はあ〜…甘いものは太るし、虫歯になるし、いいことなんかないのにね…)
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