我が優越なる上官は
海軍本部の若き女大将、闇鬼ネメシス。
その名を聞いただけで、大抵の人間は震え上がる。
人間なのかすら疑わしい強さには勿論だが
海賊にとどまらず、海軍、民衆にすら罪を感じれば公平な裁きと制裁をくだす。
絶対的で徹底的に公平である上官に、誰もがその背を見れば己の中のやましさに震える。
誰にも寄ることなく、ある種潔癖なまでの正義をはためかせる背中に。
そんな人が俺の今の上官である。
***
「ダルメシアン、獣型になって」
「…またですか?」
「上官命令」
「…わかりましたよ」
大型犬の姿になって、上官の背中と上官お気に入りのソファの背もたれとの間にそっと体を潜り込ませる。
俺の能力はクッションや枕になるための能力ではないのだが、大将は俺の能力を知ってから所望してくるようになった。
サイズと毛質、そして体温の高さがちょうどいいらしい。
「やっぱりしっくりくるわね」
「…大将、俺の能力を馬鹿にしてませんか?」
「そんなことないわ。部下の能力を最大限に引き出してるだけよ」
ああいえばこう言う、ということにかけては天才のこの人に勝てるはずもない。
この前、これもまた意外に犬好きだったらしいサカズキ中将から
犬である俺の扱いについて(そもそも俺は本来人間なんだが)注意を受けていたが、一切見直す気はないようだ。
「…そんな顔しないでくれる?これでも人間より犬の方が好きなのよ」
「俺は本来ただ犬の能力なだけの人間なのに、犬扱いされてることに嘆いてるんですが」
「上官の腰を温めて守るのも仕事よ。生理の時とか…」
「逆セクハラはやめてください」
「真面目ね」
私に甘やかされるの嫌いじゃないくせに。
そうため息を吐き出してよりかかってくる上官に、重いと言いそうになったが
せっかく甘やかされているのに人間に戻った時、美しい笑顔で鳩尾に右ストレートを貰うのも考えものだと思い、言葉を飲み込んだ。
結局、彼女に言われる言葉は少なからず図星なのだ。
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