海賊短編 | ナノ
夏のお供

うだるような暑さ。

晴れ渡る快晴が憎くて、青く広がる空を引き割きたくなる。

なんで夏は、こう人体に優しくないのかしら。


「あー…暑いわ。クザン、本部だけ冬にして」

「俺、季節変える能力者じゃないんだけど」

「なによ、どこぞの王国の王女様は一国を冬で閉ざしたっていうのに」

「この前遠征先で観劇したおとぎ話じゃんそれ」


毎年、汗一つかかず夏も涼しい顔をしてるのは、隣で新聞を眺めるこの男一人。

ヒエヒエの能力でどうせ体温調節してるんだろう。


「その能力奪えたらいいのに。というかよこしなさい」

「俺がお前より先に死んだらね…ていうか同じセリフ、真冬にサカズキにも言ってなかった?」

「だって冬は寒かったんだもの」

「自分勝手だな、ほんと」

「人間なんてふた開けたら全員自分勝手よ」


元も子もない、という呆れたような呟きを無視して、再び暑いとぼやけば、隣から僅かながら冷気が。


「…あら、クーラーになってくれるなんて気が効くじゃない」

「なんか奢れよ?」

「かき氷くらいならいいわよ。冬にするのは無理でも氷だけならいくらでも作れるでしょ」

「製氷機じゃないんだけど…そもそもそれ奢りじゃなくね?生産俺だし」

「拳で砕くのは私よ」

「せめて拳じゃなくてかき氷機で頼むわ」


文句が多いわね、と舌打ちをすればお前に言われたくないと小突かれた。

私を全く女だと思ってないわね、わかってたけど。

そう心中で言いながら汗ばんだ自分の体を、ひんやりするクザンによせた。


「ちょ、汗つくじゃん!流石に不快だから離れろ!」

「うるさいわよクザ…氷嚢」

「なんで言い直した?つーか少し甘やかすとすぐ調子のるよね、ネメシス」

「隙あらば付け入る…これが鉄則よ」

「もう暑さでやられたらいいのに」

「いやよ生きる」

prev next