Unbalance
「なにをだらけている」
相手の剣先が私の左目を貫こうとした刹那、賊は私を飲み込もうとする赤に先に消えた。
後ろに跳ねたから、熱に焼かれることはなかったけど今のは少しだけ危なかったわね。
「だらけてるなんて、そんなことありませんよ」
「フン…なら、あんな雑魚に貴様の目をくれてやるな」
「言われなくともです…よっ!!」
「!」
「ぐわあっ!」
風を切るような音と共に、私も焼き殺そうとした先輩に向けて嵐客をくれてやれば身体を低くして避けられる。
そして計算通り、真後ろから先輩を狙っていた海賊に当たった。
海賊から吹き出した鮮血が先輩にかかり、フードを汚す。
つくづく赤の似合う先輩だ。
あ、勿論嫌味よ?
「サカズキ先輩こそ、あんな雑魚に後ろ取られるようじゃダメでしょうよ」
「貴様がいつまでも動かないからだ」
「私はいつでも動けますけど」
見下ろしてくるギラギラとした目に、変わらない涼やかな笑みを返す。
仲間同士の掛け合い、ではないわ。
一切の愛や好意なんて情はない。
ただあるのは、煮えたぎるような殺意と嫌悪。
殺したいくらい嫌いな相手だからこそ、だれかに取られるのは我慢ならないの。
そう、それだけ。
「貴様を殺るのは俺だ、ネメシス」
「貴方を殺すのは私よ、サカズキ」
(似てるのに非なるから許せない)
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