雪中遊戯
マリンフォードに珍しく結構な雪が積もった。
ここのところ寒さが続いてはいたが、まさか雪まで拝むことになるとは。
おかげで海軍全体の公務にまで支障をきたし、暇を持て余す結果になっている。
「(いっそ溶かしてしまうか…)」
「あ、サカズキさん!こんなところにいらっしゃったんですか」
「アヤか…どうしたんじゃァ」
たしか今日は孤児院にいるはずのアヤが、防寒用のコートと手袋を身につけた姿で現れた。
「今からお時間お有りですか?」
「ああ…雪のせいで仕事がまわってこんからな」
「ならちょっと一緒にきて手伝ってください!」
手伝いを頼んでくるなど珍しいと思ったが、断る理由もなくアヤのあとをついていった。
一体なんじゃというのか
***
「…」
とん、と目の前のでかい雪玉の上に、もう一つなんとも間抜けな顔がつけられた雪玉をのせてやる。
同時に、足元から上がる歓声。
「ハイパー雪だるさんだー!あかいぬのおいちゃんすげー!」
「サカズキおじちゃんありがとうー!」
「あかいぬたいしょーちからもちなのー」
「いや…(…なにをさせられとるんじゃ、わしは)」
アヤに連れられてきた場所は、孤児院の目の前の広場じゃった。
そしてわらわらと集まってきた子供らに、はいぱぁ雪だるさんだかなんだかとやらを作れとせがまれ現在。
わしを放りだしてどこかにいっていたアヤが帰ってきた。
「あら、大きな雪だるまですね」
「ママ先生違うよ!ハイパー雪だるさんだよ!」
「サカズキのおじちゃんすげーんだぜ!」
「うふふ、そうですか。みなさん、サカズキ大将がきてくれて良かったですね」
わしのところからアヤのところに群がりにいく子供らを横目に、優しく目を細め、微笑みを浮かべているアヤを見る。
子供らの頭を手袋を外した白い手で撫でる姿も、寒さで淡く染まる頬も
白い雪景色の中に、よく映える気がした。
すると、アヤがわしの視線に気づいたのか目があう。
アヤは子供らにおやつのことを告げ、院内に入るよう促すと白い息を吐き出しながら近づいてきた。
「子供たちの相手をありがとうございます。今日はジャスミンがいなくて…助かりました」
「構わんが…そうならそうといえ」
「すみません。でも、とまどってるサカズキさんが珍しかったもので」
くすっと控えめに笑うアヤにため息を吐いた。
「しかし…他にも適任ならいたじゃろう。何故わしを…」
「んー…サカズキさんいつも仕事ばかりだからたまにはどうかと思いまして…」
……少しでも違う答えを期待しようとしたわしが馬鹿じゃったな。
予想通りだが期待はずれの答えに再び深い息を吐き出しかけた時、でも、とアヤが思い出したように続けた。
「真っ先に頭に浮かんだのが、サカズキさんだったのもありますね」
「!っ、ごほ!」
「?大丈夫ですか?」
思わぬセリフに不覚にも噎せたが、なんとか持ち直す。
たかだかそれくらいの言葉に舞い上がるほど自分は若くはないはずじゃ。
「(天然め…)」
「まあとりあえず…お疲れでしょう?サカズキさんも仲でお汁粉をどうぞ」
素知らぬ顔で人の心をゆさぶりにくるアヤに内心毒づいて見ながらも
結局は、おとなしくその申し出についていく。
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