海賊短編 | ナノ
特別な日には



ぷるぷる。

日付が変わった瞬間に鳴る、持たされている子電々虫。


『エース、あけましておめでとう』

「…ネメシス、やっぱお前か」


受話器をとれば、育ての母とも義姉ともいえる女の穏やかな声。

受話器の向こうでは昔と変わらず、目を細めて笑ってるんだろう。


『エースったら酷いわ、お前だなんて。年明け最初の電話なのに。挨拶はしっかりよ』

「…明けましておめでとう、ございます」

『ふふ、よくできました』


くすくすと受話器越しから聞こえる笑い声に、今日電話をくれたという嬉しさより、やっぱり気恥ずかしさが勝つ。


「…ネメシスも、毎年毎年俺にいの一番にかけてきて…暇だよな」

『あら、失礼しちゃうわ。忙しいのよ?私も』

「今はどこにいるんだよ」

『今は…襲ってきた海賊をのしてたところね』

「はあ!?俺に電話してる場合じゃないだろそれ!」


相変わらずなに危ないことやってんだ、と叫べば、もう全員海に簀巻きにして捨てたから、と返ってきた。

俺がガキだった頃からふらふら一人旅をしては嘘のような自分の武勇伝や冒険譚をしていたが、今でこそ全て真実だったんだなと思う。

それを自慢に思う反面、危険だからやめてくれとも思う。

だが、それを直接言うのはなんとなく照れて口に出せない。


「ったく…いつまで一人旅続けんだネメシス」

『そうねぇ…私がかわいい貴方たちのもとにとんでいけなくなるまでかしら』

「もうガキじゃねェんだぞ」

『…私にすれば、貴方たちはいつまでもかわいい子供と甥っ子よ』


子供扱いに苛立ちを出しても、なにも変わらない冷静で穏やかな声音に口をつぐむ。


『…それにこうして全ての場所に続く海にいれば、』


ばさりと鳥が羽ばたくような羽音。

振り返れば、黒羽の翼を背中に生やした荘厳な獣人が海面の少し上に浮いたまま受話器から口を離し、彼女は笑顔を深めた。


「一年に一度の大切な日でも、すぐに会いにいけるでしょ」

「ネメシス…!」

「Happy new year and happy birthday!」


そういって人の姿に戻りつつ、船の上の俺に思い切り抱きついてきたネメシスを抱きとめた。

するとネメシスは耳元で、毎年毎年変わらない、だけど俺が何度でも求めてる一言目を囁いた。



「エース。貴方がこの日に生まれてきてくれて、私は本当に幸せよ」

(その言葉を聞きたくて、一年のはじまりを待つ俺がいる)


prev next