海賊短編 | ナノ
戯れるもの



「ジャブラさん!もふもふさせてください!」

「うおっ!またかよアヤ…」


部屋でうたたねをしていれば、嬉しそうにとびこんできて、抱きついてきたちまいのを受け止める。

とびついてきたのは世界政府や海軍内で一番ちまっこく、それ以外至って平凡な、俺と少々年が離れている海軍の小娘。

だが並々ならぬ記憶力から大将赤犬に引き抜かれ全海域の海軍の情報を掌握し、さまざまな伝令、通達を海軍や政府の各方面に伝える若き情報伝達部の部長。

簡単に握り潰せそうな小さな頭に、海軍や政府に関する膨大な情報を収めているすげえ奴でもある。


「ダメですか?」

「ダメとは言ってねーだ狼牙」

「わあい!」


狼人間になった俺のしっぽに嬉しそうに抱きついてくる。

他のやつにはさせるわけがねぇし、言うやつもいねぇ。

だがアホみたいに幸せそうな顔で身体をすりよせてくるアヤを引っぺがす気にもなれない。

海軍や俺たちの中でも、平凡故か随分と異色な性格をしているせいか、調子が狂う。

だが嫌な気もしねぇ。それが問題だ。


「はあ〜…ジャブラさんの毛皮気持ちいい〜」

「ったく俺に、もふらせろなんざ言うのはてめーくらいだぜ…」


胡座をかいて座り、しつこく尻尾に抱きつく何倍も小さいアヤを片方の膝にのせる。


「ならジャブラさんを独り占めですかー嬉しいなあ」

「俺を独り占めにしてなにが楽しいんだお前はよぉ」

「えー、私ジャブラさん好きですよ」

「毛皮が、だろ」

「もふもふは勿論ですけど、ジャブラさん自身のこともですよ」


優しいですから。

その言葉に呆気にとられる。


「はあ?…アヤお前…馬鹿か?」

「え、酷くないですか?褒めたのに酷くないですか?」

「…暗殺者に優しいもクソもあってたまるか」


殺し屋の俺が優しいってんなら、いつまで経っても甘ちゃんなお前はなんだ?聖人か?

馬鹿にするように言えば、アヤは少し複雑そうに眉根を寄せた。


「…たしかに、ジャブラさんたちは影の仕事をしてくれていますが…ジャブラさんは、仕事をする時、相手を長く苦しませないんでしょう?」


それは貴方の持つ紛れもない優しさだと思うんですよ。

両手の指を合わせて、控えめに笑いかけてきたアヤにむずがゆいものを覚え、狼化しているために長く鋭くなっている爪をアヤの胸元に当てた。


「…馬鹿なこと言うんじゃねーよ。上から命令がありゃ、俺はお前でもここぶっ刺して殺すんだぜ?」

「…それは嫌だしめちゃくちゃ怖いですけど…でも私を苦しませないですよね」


だから優しいんですよ、と言い張るアヤに、だんだんなにも言えなくなり、否定も馬鹿らしくなってきて爪を離した。


「…馬鹿だなお前ほんと」

「…なんかジャブラさんにそこまで馬鹿とか言われるとだんだん屈辱なんですけど」

「どういう意味だコラァ!」

「ぎゃー!食い込みますから!爪が!!」


イラっとして片手でアヤの身体を軽く握れば、さっきと違い悲鳴があがった。

俺が力加減間違えたとかでお前を引き裂くわけねーだろ馬鹿娘。


「…ったく…アホが…」

「馬鹿からアホになった!ひどい!」

「うるせぇうるせぇ。もう黙って俺をもふってろ」

「………そのもふられたいぜ発言もどうかと」

「ほーう、俺の指銃を喰らいたいとは度胸があるじゃねーか」

「ごめんなさい。全身全霊でもふらせていただきます」


ふざけた会話。

だらしなくすぎる時間。

アヤといるこんなくだらねぇ空間が最近一番楽しいと思ってる俺は

もしかしたらこれ、だいぶヤバイのかもしれねぇ。



(ショウガン部長。大将赤犬からお怒りのでんでん虫が…)
(Σえっ!?)(!…ぎゃははは、また怒鳴られるんじゃねーかアヤ)
(赤犬さんが短気なんですよう…(しゅん))
((…うぐああ!!んな顔したら帰したくなくなんだ狼牙!!!)(もだもだ))




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