血は深く濃く
「ネメシス」
「!…あら、いたのね」
子供たちの監督の合間の小旅行の最中に、フーシャ村から少し離れた東の海のある島のBAR。
何年かぶりに見る兄さんの顔。
世界を変えるために危ない橋を渡っているのは知っているから、ただ現れるのを待つ。
止める気はない。止まるはずがないから。
「久しぶりだな…ルフィはどうしている?」
「元気でいい子に育ってるわよ」
「そうか…任せられるお前がいてよかった」
「…こういう時だけ都合がいいわね、兄さんは」
私は都合のいい女じゃないわよ?
からん、とグラスを傾けて、隣のフードを被った男に笑えば、そんなことはないさ、と返ってきた。
「昔から信頼のおける…よくできた妹だ、お前は」
「ふふ…ところで、兄さんこそ大丈夫なの?」
「俺か?俺は問題ない」
「よく言うわ。一番危ないでしょうに……」
ため息を吐き出す。
「お前たちに迷惑はかけない」
「そういうことじゃないのよ、馬鹿なの?」
「…(…馬鹿…)」
「…まったく…とりあえず、死なないでね?」
悲しいから、とだけぽつりと零してグラスを置いた。
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