焼けつくようなラム酒の香り
「ふふ、あの赤髪海賊団さんと飲めるなんて嬉しいわ」
「そりゃあ光栄だな」
たまたま立ち寄った、新世界の小さな島の酒場。
お頭や他の面子がわいわいと騒いでいるのを、瓶を片手に眺めていると
このネメシスという大人しそうに見えるが、やけに気さくな女が入ってきた。
その、どうも気軽な態度がうちの奴らと波長があったらしく、あっという間にうち解けて共に飲み出し、現在。
「貴方は、ベン・ベックマンでしょ。噂には聞いてるわ。優秀な副団長さんらしいじゃない」
「んな大層なもんじゃねぇさ」
「またまた、ご謙遜ね」
にこにこと笑いながら、長い黒髪を掻き上げて酒のグラスを煽るネメシス。
酒で体が熱いのか、汗ばんだ白い喉が動くのが、妙に色っぽく視界にうつった。
普段が男所帯だから余計にそう見えんだろうか。
すると俺の視線に気づいたネメシスが、またにこっと笑った。
「あら、私に見惚れた?」
「まあ…そんなとこだ」
「ふふ、私もまだまだいけそうね」
でも私、偶然の出会いが一度目の男とは寝ない主義なの。
「二度目の偶然があれば、まるで運命みたいだし、考えるわ」
貴方いい男だし、嫌いじゃないから。
ネメシスはにこにこと上品な笑みを浮かべたまま、さらりと期待させるような発言をして、またグラスを煽った。
からん、と氷が音を立てて傾く。
「あら、なくなっちゃったわ」
「俺のはまだあるが…飲むか?」
「いいえ、大丈夫。私、誰かと飲むときは一杯だけと決めてるの。名残り惜しくなっちゃうから」
そしてネメシスはカバンを持って立ち上がり、店の出口へと歩き出した。
「なんだネメシス!もう行くのかよ?」
「ふふ、私も旅人なのよお頭さん。でもおかげで美味しいお酒が飲めたわ。いい男にも会えたし…ね?」
こちらに悪戯をしかけるように笑いかけるネメシスに、ふっと口角があがる。
「それじゃ、みなさんまたどこかで」
(どうにも、忘れられそうにない)
prev next