低温火傷は痛いだけ
「クザンさんって、」
「ん?」
「クザンさんって…かき氷にできるんですかね」
「…アヤ、それは俺にどういう答えを期待してるのかな?」
またこの子は随分と変なことを言いだしたな、と思いながら、そんなことを興味本位でされたらたまったもんではないので真意を聞いてみる。
「だってクザンさんは氷人間だから、氷ってるところから削っていけばかき氷になるのかな、とふと思って」
「…まあ理屈ではできないことないと思うけど、中々グロいこと言ってるからね多分」
俺一応氷以前に人間だからね?なのに削るっていかがなもんよ
そう言って聞かせたら、人間だったんですかと言わんばかりの目で見てきた。
…年々アヤの神経が図太くなっていて俺は悲しいんだけど。
「…まあ確かに、いくらチートクラスの化け物染みた戦闘力があっても一応は人間ですもんね……すみませんでした」
「ねえ、まだ失礼なこと言ってるって気づいてる?」
好きな子に化け物と言われて良い気はしないんだけどな、と思いながら屈んでアヤの髪をわしゃわしゃーとしてやれば
やめてくださいよーと笑いつつ嫌がってきたので、さっきのはわざと俺をからかっただけなんだろう。
「あんまり歳上をからかうんじゃないの。ほら、ごめんなさいは?」
「えへへ、ごめんなさぁい…まあでもクザンさんのかき氷ちょっと気になったのは事実なんですけどね」
「…俺をかき氷にして食べたら多分俺が元に戻る時グロいことになるからすすめないよ」
「あっ…たしかに…」
「でしょ?だからやめといた方がいいよ。(まあ、アヤと一時的にでも一つになれるのは魅力的な話かもしれないけどね)」
少しだけ胸に浮かんだ、明らかに危ない自分の発想をかき消して残念そうなアヤの頭を撫でた。
「(…でもアヤにアイス・エイジかけて芯まで凍らせられたら、アヤをかき氷にして食べれるかもだし、食べなくてもずっと飾ってられるよなあ)」
あ、これもだいぶヤバい発想じゃないの?
「…?クザンさん?」
ヤバイと自分で思うより早く能力が発動したらしく、パキッと凍りつく時の音と冷気。
それを俺の掌から感じたのか、少しアヤが訝しげに俺を見てきた。
そんなアヤになんでもないと言いながら手を引っ込めた。
「(あっぶね…駄目だよ俺。それは流石に駄目だって)」
俺は巷で流行ってるヤンデレとやらになる気はない…はずだ、うん。
「クザンさん…?大丈夫ですか…?」
「あ、ああうん…平気平気。ごめんな、びっくりしたろ?」
能力の調子が悪いらしい、と言い訳して、アヤの高めの体温の温もりを奪ってないかと抱き上げて抱きしめて確かめる。
「(ああもう…何してんの俺…)」
能力も制御できないようなひよっこなんてとうに卒業したろうに
一瞬の気の迷いで、この小さな体から鼓動と温もりを奪うとこだった。
「ごめんな…」
「いえ、私は大丈夫ですよ…?」
クザンさんは、私に望んで危害を加えないって信じてますから。
柔らかく微笑んで俺の頬に触れてきた俺にはないアヤの手の熱さに、じくじくと胸が痛んだ。
(冷えこんで病んでいくだけの俺の愛を、そばにいてその熱さで溶かしてよ)
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