海賊短編 | ナノ
葉巻で一服



「スモーカーさん、葉巻一本ください」

「…いきなりどうしたんですか、アヤ部長」

「今はプライベートだから敬語は崩してください」

「…わかった」


年こそ下だが、稀な才能を買われて異例の出世を果たして長い娘。

普段は海軍に似合わねぇ穏やかな気性をしているが

今日はやけにいらついているようだ。


「で、なんでいきなり葉巻欲しいんだ?お前吸わないだろ」

「…ストレス溜まった時の葉巻は美味しいって聞いて…」

「お前でもストレス溜まるのか」

「溜まりますよ…赤犬さんが怖いとか、クザンさんが仕事サボるとか、黄猿さんがもの壊しすぎとか…」

「…大将への文句なんざ頷けねぇよ」

「うー…とにかくですよ、それらがストレスだから葉巻吸いたいんです」


ストレス軽減になるんでしょう?とふくれっ面で、よこせと言わんばかりに手を差し出してきた。

絶対口に合わねぇだろうし、こいつじゃむせそうだと思い、新しいのをくれてやる気にもなれず

咥えていた葉巻を渡してやった。


「これスモーカーさんが今吸ってたやつじゃないですかー」

「葉巻は高ぇんだよ…新しいのなんかほいほいやれるか。それ試して吸えそうなら新しいのやる」


そう言えばアヤは不服そうにしつつも納得したようで、火のついたままの葉巻を口にして息を吸った。

そうすれば、


「っ!?ごほ、っ!!」


…やはりと言うべきか、予想通り盛大に噎せやがった。


「おい、大丈夫か?」

「うぇ…おいしくない…」


苦しそうにしながらもういいです、と葉巻を返してきた。


「…ストレス発散になると思ったのに…」

「向いてねぇんだよ、お前には」

「うう…口の中まだ苦い…」


相当嫌な味だったのか赤い舌を出し、涙をためて苦々しい顔をしている姿が妙に妖しくて見入る。


「…(…普段はこいつ、ガキみてぇなくせにな)」

「…?なんですか?」

「…いや…それよりだ、これに懲りたらもう葉巻なんざ吸わねぇようにするんだな」

「はあい…はあ…別のストレス発散方法探さなきゃ…」


残念そうに肩を落としたアヤの頭に思わず手を伸ばし、わしゃっと撫でる。


「…飯食いながらなら、話ぐらいまた聞いてやるよ」

「!…えへへ、絶対ですよ」

「ああ」


いつも通りガキのような無邪気さで笑ったアヤに、少しばかり自分の口角を上がるのを感じながら

もう一度クセのある髪を撫でた。



prev next