海賊短編 | ナノ
愛しさに沈めて



「(空が割れましたか…)」


シャンクス君の言葉を跳ねつけたゲートが、坊やと刃を交わしたことにより、空が割れた。

それを、立ち上がったゲートの座っていた椅子の膝かけに座りつつ見上げる。


「(…世界が、動き出す予感がする)」


世界中に散らした私の魂たちが、騒ぎ立てている。

終わりと始まりを奏で、変わり出す世界の音色に慄いて。


「…」

「…エレシア、どうした?」


シャンクス君を追い返して、椅子の方に戻ってきたゲートの手が、彼がとても好きだと言う私の長い髪を一房掬った。

その何倍も大きな手にそっと片手を添えて、不安を殺して微笑み返す。


「…世界が切り変わる、音がしたのですよ」

「それは…おめぇを不安にさせんのか?」

「……まだわかりませんが、少しだけ…怖いんです」


再び椅子に腰掛けたゲートの膝にのり、身体を完全に彼に預け、寄り添う。

いくつもの管で延命している身体。

それでもたくましい身体が心地よくてたまらない。


「…ゲートの身体は暖かいですね」

「グラララ お前の身体もあったけぇさ」

「ふふ…それならよかった」


二人ひとしきり笑い合ってから、一息おいて、不安の種を吐き出した。


「ねぇゲート…私、貴方をまだ失いたくありません」

「!…素直たァ珍しいな」

「それだけ、不安なんです。だからまだ…ビブルカードの届く距離にいてくださいね」

「…ああ、まだどこにもゆく気はねぇさ」

「…ほんとうに?」


身体をよじって、ゲートを見上げれば優しい目とかちあった。


「…少なくとも、お前に黙って逝きはしねぇさ」

「……、ゲート…」


なら、死なないでください。

独りぼっちはもう嫌なんです。

そう言いたいけど、それはかなわないとわかってて

ぐっ、と言葉が詰まり、黙って胸板に額を当てた。

少し乱れた彼の心音は、病のためか、私のためか。


「…生きるとは、本当に…ままならないものですね」

「…後悔するか?生きることに憧れたことを」

「…少しだけ…でも生きることに憧れたから、ゲート…私は貴方に会えた」


それだけで、遥か過去に死ななくてよかったとも思えるんです。

ゆるく笑えば、ゲートの手が優しく私の頭を撫でた。

心地よくて目を閉じて擦り寄る。


「…今日、船に泊まっていいですか?」

「今日中に発つ予定じゃなかったのか?」

「…気がかわりました。多分、出たら、しばらくまた貴方のところには戻りませんし…」


久しぶりに、貴方のそばで眠りたい。

首に腕をかけるように抱きつけば、腰を手で支えてくれた。


「…眠るだけで済めばいいがな」

「あら…身体に負担でしょう?」

「可愛い女も抱けねぇほど、弱った覚えはねぇよ」


その言葉に照れと嬉しさと申し訳なさとがこみ上げて、愛しいという感情が突き動かされる。


「…貴方がそう言うなら、喜んで私は受け入れます」



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