海賊短編 | ナノ
夢の終着点へ



「エレシア、自分の旦那のところに行かなくていいのか?」

「…ゲートとは、旦那でも恋人でもないですよ、レイリー坊や」


シャッキーの店でグラスを傾けていると、レイリーが無粋なことを言ってきた。

私が、今一番考えていることをまあよくも踏んでくれますね。


「なんだ、まだ結婚してなかったのか」

「…まだもなにも、はなから付き合ってません」


そう、私とゲートは付き合ってなどいない。

旧友?ビジネスライク?まあ、ともかくそういう関係。至って健全。

なのに周りは勝手に夫婦だなんやかんや囃し立ててくる。

ゲートは否定しない。だから私からだけの否定。

…別にゲートを愛していないわけではない。

けれど私たちの関係はそんな簡単なものではないのだ。


「…でも、ゲートとの関係を否定し続けるのも、今回が最後になるかもしれませんね…」

「…エレシア、お前の見解だとそうみるか…」

「…冷たいと思います?でも、そうですね…悲しいですが…」


ゲートが勝てるのか、怖い。

最後は口には出さず、不安ごとグラスの酒を煽った。


「…当然の別れになれすぎるというのも、嫌なものですね…」


いつかくる仕方ないことだと、割り切ってしまいそうになる。


「…エレシア…それでどうする気だ?今回は…」

「…行きますよ、もちろん」

「…それは、正しい歴史を記録するためか?」

「それもあります」


それは、私にしかできないことだから。


「…」

「…けれど、今回はそれだけでなく…長い夢の続きを見に」

「夢を…?」

「…ええ、ずっと二人で紡いできた夢があるのでね」


これで結末になるとしても、いかねば。

そう言って飲み干したグラスを置いて立ち上がった。


「…エレシア、お前も人並みの幸せを望んでいいんだ。それを忘れるんじゃないぞ」

「…レイリー…私は幸せですよ。少なくとも、夢を見終わる瞬間まで、私はきっと満たされています」


ですから、私はこれ以上今はなにも望みません。


「!エレシア…」

「ごきげんよう、レイリー。私たちの夢がおわらないことをどうか祈っていてください」


レイリーの呼びかけを遮り、服の裾をそっと持ち上げて笑顔で会釈をしてから、ぶかぶかの船長帽を被り、店をでた。



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