永く焦げ付いた心は
赤のつまった瓶を片手に呼びかける。
「ねぇ鰐坊や」.
「…その呼び方は気に入らねぇ」
「…はあ、クロコダイル君。お願いがあるんですが」
「…なんだよ」
「マニキュア、塗ってくれません?」
***
「…なんで俺がこんな真似を…」
「いいじゃないですか、気まぐれに付き合ってくれても」
血を垂らすように指先を彩っていく真っ赤な色。
情熱的に存在感を放つこの色が、私は好き。
私の存在の印象を干渉できない時間に植え付けてくれるから。
その大切な意味を孕んだ色を、自分やゲート以外に塗らせるなんて、私も焼きがまわったものです。
「(…しかも鰐坊やに…)」
「…?エレシア?どうした」
「…いいえ?ただ、見た目より器用なんだと思いまして」
「馬鹿にしてんのかテメェは…」
「あらあら、短気は損気ですよ」
大きな身体を丸め、私の手を取ってマニュキュアを塗る鰐坊やを
本心を影に隠してからかうように笑えば、睨まれた。
だが、不機嫌そうにしつつもやめようとしないクロコダイル君。
昔から、意外にも素直で純情なままの男。
「(…私は、この男に嫌われたいはずなんですがね)」
気づけば甘えようとしていて、何をしているんでしょう私は。
「(…そばにいても幸せなんて、くれてあげられるはずもないのに)」
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