「――――…………」
(なんだ、これ……?)
目の前に広がる凄惨な光景に、俺は言葉を失った。
覆水、盆に返らず(西加)
最初は只の口喧嘩だった筈のそれは、次第にヒートアップしていき、最終的には物が破壊されるまでの勢いと化しており、相手に何かを投げ付けようと辺りに目を向けた瞬間……、
「!!!」
頂点にまで達していた怒りは、急速に沈んでいった。
(マジかよ………)
割れたガラス、原形を留めていない家具一式。
足元は――、それらの破片で埋め尽くされており、とてもじゃないが足の踏み場など無い状態であった。
(い、いつの間に……)
確か、先にテレビのリモコンを投げ付けてきたのは西であったが、俺も負けじと反撃していたし……、こんな強盗も真っ青な造りへと変えてしまった責任は、自分にもある。
だからこそ、だからこそだ。
恐ろし過ぎる現状を目の当たりにし、震えが止まらないのだ。
(弁償……、出来るのか?これ……)
全額とまではいかないが、最低でも半額は出さなければなるまい。
――何故なら、此処は西の“家”なのだから。
(あ……、)
ショックのあまり、後方に倒れそうになった体を慌てて支える西。
「馬鹿!!こんな所で倒れてんじゃねぇよ!!!」
怒鳴ってはいるが、その目にもう怒りは無く、心配の色が見て取れた。
なんだかんだいって、西は結構優しいのだ。
…………、多分。
「だって……、」
「あ?」
「弁償………」
俺の呟きに、眉を潜める西。
家具自体はさほど多くなく、どれもシンプルな造りの物が殆どであるが……、それらが高価である事は、目利きではない俺でも解る。なんとなく。
(バイト、増やさねぇと………)
一気には返済出来ないから少しずつ支払うとして――………、あぁでも、どれだけ掛かるんだ?一体。
なんて、思いながらズルズルと力無くその場に座り込んでいると………
「オイ。」
ぺち、と額を軽く叩かれた。
「一人で勝手に突っ走ってんじゃねぇよ。」
「西……」
顔を上げれば、呆れた顔をした恋人がそこに居た。
「俺さぁー……、弁償しろとか一言も言って無いんですけど。」
「え………?」
って事は、つまり――……
「弁償しなくて良いのかっ!!?」
ガバッと勢い良く起き上がり、相手に詰め寄れば、頷く形で肯定してくれた。
「まぁ俺もブッ壊しまくった訳だしー……ぶっちゃけ、お前にそんな金無ぇだろ?」
(そう!そうなんだよ!!)
流石は俺の恋人!!良く分かってらっしゃる!!!
プライドも何もかもかなぐり捨てて、ブンブン!!と力強く首を二、三度縦に振れば、ハァ……と何処か疲れたようなため息を吐き出された。
どうせ馬鹿な奴……、とでも思っているのだろう。
「あ、でもこれどうすんだ?」
生活の危機はどうにか免れたものの、自分達がしでかした事についての“後始末”はきちんと付けなければならない。
問題は……、その手段であるが。
(スーツ着りゃこれ位余裕で運び出せそうだけど、処分する場所がなぁー……)
それ以前に、マンションの住民等に目撃されそうな可能性だってある。
夜ならまだしも、今は真っ昼間なのだから。
「業者に運び出して貰えば良いだろ。」
しかし、俺の心配を余所に平然とそう言ってのける恋人は、相変わらずで。
果たして事の重大性に気付いているのか、些か疑わしくなってきた。
「何て言うつもりなんだよ……」
「言うも何も、余計な事詮索しねぇ業者に頼むつもりだから問題無ぇよ。」
「……………。」
(あー………)
あれだけ広い情報網を持っているのならば、造作も無い事であろう。
「なんか……、色々とごめんな?西……」
「良いって。その代わり、片付けが終わるまでお前ん家(チ)で寝泊まりすっからな。」
「ん。」
「後、家具の買い出し付き合えよ。」
「分かっ……、って、俺も一緒に選ぶのか?」
「当然。お前も使うだろ?」
ベッドとか、と背伸びし人の耳元で余計な一言を囁いてきた恋人の顔はいつも通りの意地の悪さで。
一瞬でも心の底から感謝した自分がなんだか馬鹿らしくなって、無言で俺よりも一回り小さい背中を力一杯叩いた。
END
(ってぇなぁ!!いきなり何しやがんだ!!!)
(お前が変な事言うからだろ!!?)
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文月さんから素敵な小説を頂きました!!
わーーっややこしいリクを快く受けて下さり本当にありがとうございます^^
中学生とマジ喧嘩するのとブンブン頷く加藤が可愛いです……!!
あと一緒に家具買うとかもう完全に新婚生活に向けてのカップル!!やっぱりベッドは大事ですよね!!!ニヤニヤ
文月さんありがとうございましたあああああ!!!!
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