玄&加&西(松藤さん)

「あの、加藤。」
「なに?計ちゃん。」
「誕生日当人のおまえには目茶苦茶頼みにくいことなんだけど、その、」
「うん。」

木材でできたピーラーを右手に握ったまま、玄野はしどろもどろに切り出したのだけれど、察しが良い加藤は玄野の目線の先にあるもので、玄野がなにを訴えたいのか、充分に理解した様子だった。
たゆまずエコバッグと財布を用意しはじめた加藤に、玄野は「そうそう!買い物を頼みたかったんだよ!」と、二度頷いてからにこりと笑んだ。それから、じゃがいもの皮剥きの作業を再開させる。これと生ハムと炙りサーモンにバルサミコソースを加えて、【マッシュポテトと炙りサーモンバルサミコ】を作る計画である。
皿のうえにはにんにくと粗挽きこしょう、塩をよく揉み合わせた生サーモンとマッシュフレークが載っていて、加藤は玄野の隣に立ち、皿を覗き込んだ。

「なにが必要なんだ?」
「えっと、バターとパセリ、プチトマトかな。あと飲み物も欲しいかな、時間があればスーパーかなんかでコーラとか買ってきてくれよ。」
「わかったよ。」

玄野は次々と切らした品物の名前をあげて、加藤はその品物たちそれらをしっかりと、聞き漏らすことなくきちんと頭にいれた。それから他に買うべきものがあるかもしれないと、加藤は冷蔵庫の取っ手に手をかける。

「あ!」
「えっ?」

突然声をあげた玄野に、加藤はびくりと取っ手にかけた手を止める。それから玄野に訝しげな目線を送ると、玄野はほおを微妙に引き攣らせながら、なにごともなかったかのようにへたくそな笑みを浮かべた。

「い、いや、なんでもない。確認してくれよ。」

加藤は不思議そうに首を傾げながら、冷蔵庫、冷凍庫と、うえから準々にチェックを済ませていく。その加藤の後ろ姿を、玄野はまるで雁金を狙撃する雁金狩りの名人のような目でチェックしていた。じゃがいもの皮を剥くピーラーを持つ手はすっかり止まっていて、皿のうえでは下ごしらえを終えた生サーモンたちがくたびれた様子で鎮座していた。
冷蔵室内を一巡して、加藤は再度首を傾げた。眉間にしわを寄せて、腕を組む。あるべきものがない、そのような様子で加藤は冷蔵室内をもう一度、順々に見直していった。そんな加藤に玄野はごくりと息を呑む。

「……ない。」

おいおい険しい顔をした加藤が、ぽつりとつぶやいた。びくりと肩を揺らして表情を凍りつかせた玄野は、すかさず笑顔を浮かべ直して加藤を見つめる。声を張って、腕を組んだまま動かない加藤に話しかける。

「そうだな!紫蘇、紫蘇があったほうが良いよな!紫蘇も切らしてたわ!悪い加藤!」
「いや、違うよ計ちゃん。紫蘇じゃなくて、ケ」
「うおおおお加藤!あと三〇分!三〇分でみんな来ちまう!」
「えっ、えっ、わかった、わかったよ計ちゃん。行ってくるよ。」
「頼んだぜ加藤!」

あるべきものがないと、納得のいっていない様子だった加藤は玄野の持ち出した『みんな』という言葉に、しぶしぶと折れた。みんなが来るまえには食事の準備は済ませていようと、ふたりで話してあったのだ。初冬の寒い時期、手先足先をつめたくさせてやってくるであろうみんなには、暖かい部屋と温かい料理で迎えてあげたい。
エコバッグに財布を入れて、加藤は意気に玄関から出て行った。
ちいさくなっていく加藤の後ろ姿を窓から確認して、玄野はほうっと一息吐いた。キッチンへ戻り、洗面所の扉を開ける。

「西、もう平気。」
「……ちッ、なんで俺がンなことしなきゃなんねーわけ。」
「そう言うなよ、実際すこし楽しんでんだろ。」

ちからなく笑って、玄野は西の抱えるクーラーボックスからましろい紙箱を取り出した。箱に入っているのはフレジェ・ホワイトチョコレートケーキだった。いちごをたっぷりと使ったケーキで、ホワイトチョコムースといちごの酸味が調度良いホワイトケーキ。今日の日のために西と玄野のふたりで、こっそりと打ち合わせしておいたのだ。
ケーキは西の担当だと決めていた。西は皿にケーキを移して粉砂糖で最後のデコレーションに取り掛かり、その横で玄野は調理の追い込みに掛かる。たまねぎをスライスし、塩とこしょうを振り掛け、刷子でサラダ油を塗り付ける。

「あいつらおせぇな。」

西が時計をにらみつける。玄野は「もうすこしで来るだろ」と笑いながら答える。まだ準備はできていないが、加藤には早く帰ってきてほしかった。クラッカーをいくつも鳴らして色とりどりのテープで出迎えてあげたら、一体どんな反応をしてくれるのだろう。

「照れながら、笑うんだろうな。」

西がいやみっぽく笑いながら言う。それからふたり、もうすこしで来る客人たちと加藤の反応に胸をわくわくさせながら、顔を見合わせて笑った。



メレンゲの岬より愛をこめて









********************
松藤さんから誕生日にいただきました!!!!

照れながら笑うんだろうなあって言葉に純粋な優しさを感じました。西くーん!加藤はそう笑うだろうなあ…
加藤や皆が幸せそうですごくほっこりしました!!皆良い子で可愛いなあ



本当は載せずに一人でニヤニヤしようと思ったけど自慢したいので載せます(笑)
松藤さん、ありがとうございました!!とても嬉しかったです!!!



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -