『お前なんか嫌いだっ!』

先程聞いた霧野の声が、また脳裏で再生される。

言われてからずっとリピート再生されているそれは、一生俺を苛み続けるのだろうか。

そんなことを考えてしまうほどに、霧野に嫌いだといわれた事はショックだった。

悲しかった。

霧野に「愛してる」と言って、

「俺もだよ」と言ってもらえて、

その翌日に触れるだけのキスをして、

またその3日後に深い深いキスをされた。

キスは慣れないせいかものすごく苦しかったけど。

霧野に愛されてることを感じられてとても嬉しかった。

それから俺たちは練習やら何やらであまり触れ合えなくて、

3日前にようやく時間が取れて、2人きりで俺の部屋で色んな事を話した。

昨日は練習が終わったあと、一緒に小奇麗な喫茶店に入って紅茶を頼んでいっぱい話した。

そして今朝は校門でぴったり会って、俺は朝から霧野に会えて辛い事を全部忘れられるほどに嬉しくなった。

それなのにささいなことで口論になって、その口論は俺たちが部室に着いても続いていて。

三国先輩たちがおろおろしてるのを知らないわけじゃなかったけど、

俺は言ってはいけないことをいってしまったんだ。

『俺は別にお前がいなくても生きていける!』

言ってからしまった、と思った。

霧野の表情が変わったからだ。

ごめん、と言おうとしたが声が出ない。

俺が声を出す事をためらうほどに霧野は怖い顔をしていた。

もう一度ごめん、と唇を動かす。

声は、やはり、出なかった。

その次の瞬間、霧野の顔が驚くほどの憎悪に歪んだ。

気づいたときには俺の頬は打たれていて、

あの一言を、言われた。

『お前なんか嫌いだっ!お前はキャプテンに向いてないんだよ!』

キャプテンとして否定されたことよりも、霧野に俺を否定された事が悲しくて、俺は涙さえ流せなかった。

霧野が勢いよく部室を出て行ったとたん、力が抜けて俺は座り込んでしまった。

静かな沈黙が部屋を包む。

それを破ったのは円堂監督の声だった。

太陽のようなその笑顔を見て、監督に縋り付いて泣けたらどれほどいいだろう、と思った。

でもそんなことはできなくて。

監督の口から霧野の名前が出たとたん、俺は耐え切れなくなって部室を飛び出した。

そして今に至る。

人通りの少ない裏庭から見上げた空は、憎らしいほどに青い。

俺は、その青とは対極に位置するあのピンクの髪を思い浮かべて、また、泣いた。




嫌いになったと
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