謹慎を食らったのは、もう三日も前の事になる。俺は嫌だって言ったのに、土方さんはまるで聞く耳を持たなかった。「少しは反省しろ」と、冷たい声で俺の部屋から出て行った彼の背中が昔と変わらず遠く感じたのは、きっと気のせいではない。


あの日真選組に大きな仕事が入ってきた。滅多に出動命令の掛からない俺を率いる一番隊が総出で任務に付く事になった。油断していた訳では無い。刀の筋なら自信があるし、飛び道具なら真選組の所有するバズーカの方が威力は上である。
ただ、「沖田隊長!」と、部下の叫び声を聞くまで背後の敵に気付かなかったのは少し考え事をしていたから。何処かに浮遊していた意識を戻すとその攻撃を紙一重でかわし、一蹴する。何とか隊務をやり遂げる事は出来た。しかし予想外の深手を負ってしまったのも事実。右肩を負傷。出血が酷く直ぐに手当てを受け帰ってきた俺を迎えたのは昔馴染の土方さんではなく、鬼の副長の方であった。

「隊長って名前は飾りじゃねェんだよ、次仕事中にうつつ抜かしやがったら切腹だからな」

大丈夫か、の一言もなくそう吐き捨てる土方さんの顔には怒りと、それから心底で心配している表情が伺え「ごめんなさい」という意味を込めてすぐにでも抱き締めたい衝動にかられはしたものの、傷のせいで熱を持った身体が布団から離れることはなかった。じんじんと痛む傷が自業自得だと笑っているようだった。





「別に、仕事を甘くみてた訳じゃねェよ」

  外出を禁止されてから三日目。医者が帰ってから土方さんが直々に昼飯を持ってきてくれた時、俺はいじけた子供のように彼に背を向け話し掛けた。話し始めた俺の後ろに土方さんが座る気配を感じた。
密輸現場であったその場所で、俺は姉の婚約者を斬ったときのことを思い出していた。唯一の肉親であった姉を騙していた薄汚い男のことを。幼い頃、俺は姉から「人を騙すことは卑怯なことだ」と教えられた。俺もそう思った。でも、現に騙されていた姉が可哀相には見えなかった。幸せそうに笑っていた姉の顔。久しく見ていなかった笑顔はこうも簡単に作られるものなのだ。同時に分からなくなった。姉が幸せそうであったから(そうみえたから)黙っていようかと思った。けれど土方さんはそれを許さなかった。

「アンタは真っ直ぐで、いつだって、正しい」

性格が捻くれて育った俺とは違い、土方さんは何処をついても折れない芯があって、それが羨ましくて憎らしくて、格好いいと思って、惚れた。同時に遠くにも感じた。追い付けない距離があった。歳の差だけでは埋まらない何かが。幼い頃、反発することで構って貰う事を覚えた俺は今でも変わらず土方さんを罵倒し続ける。時々面倒臭そうに溜め息を吐かれると、餓鬼な俺にとっては構って貰えぬ黄色信号の様に感じた。毎日毎日、どうしたら飽きられないか、どうしたら俺を見てくれるのか、どうしたら俺をもっともっと愛してくれるのかを考えてた。あの日も、そう。

「俺なんか死んだらよかった」
「…おい」
「今更命なんて惜しくないし」
「総悟」
「俺が死んでも誰も、」
「総悟!」

構ってもらうのは簡単だ。いじけて、怒らせて、名前呼んで貰って、嬉しい自分がいる。土方さんは俺がどんなに面倒くさくても見捨てない。(自惚れだと思う)それに俺は甘えてく。
あの時俺が攻撃をかわさず致命傷を受けて死んでいたら、アンタは泣いてくれてたのかな。姉を亡くしたあのとき見たいな表情を、俺にも向けてくれるのだろうか。想像するとそれも悪くない気がする。
副長職は勿論のこと忙しく、なかなか昔の様に相手をしてくれないアンタに対して「構って欲しい」とただそれだけが言えず、俺は暫く(眠たい振りをして)瞼を閉じた。この澱んだ空気を残したまま一人土方さんだけを取り残す。きっと複雑な顔をしてる。そして優しい土方さんは俺にかける言葉を探してる。アンタをこの空間に閉じ込めるのは、こんなにも容易いのだ。いつ、逃がしてあげよう。この部屋から。そして俺から。きっとまた俺を心配した顔をしてるアンタを抱き締めてやりたいと思ったけれど、やはり熱をもった右肩がそれを許さなかった。



160618




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