子供って遊園地好きやん。ごっつい塀で囲まれただけのスペースではしゃいいで走ったり。吐き気付きの空中ブランコも回るだけの観覧車も彼らにとっては夢の世界。そん中で食べるぼったくりのソフトクリームなんかは格別に美味しいもんなんやろうな。
そう思ったんや。
そう思って、俺は白石を遊園地に連れて来た。
春休みも終わる頃、「デートがしたい!」と我が儘をごねた生徒(恋人?)の為にレンタカー借りて高速に乗ること約3時間。
車から降りて、さあ入り口に。ってとき。
コイツ、なんて言ったと思う?

「遊園地なんかガキの遊び場みたいなトコ連れて来られてもぜんっぜん嬉しないわ!」

おいおいおい。お前昨日まであんなに楽しみやわー!とか言うてたやん。女子高生かってくらいにきゃっきゃ嬉しそうにはしゃいでたやん。正直ちょっと可愛かったで。やから俺も張り切ったんや。
それがなに。当日になって嬉しくないとは、どういう事やねんそれ。

「オサムちゃん俺の事…ガキやと思ってるやろ」

それが不機嫌の理由らしい。
ガキやと思ってる、
言うか……
俺からしたら未成年で生徒のお前等はみーんな餓鬼やわ!その中でもお前は成長期終わったん?て言う程周りの同い年に比べれば背も高いし顔もそこそこイケてる方やから(…)大人びて見えるとは思ってる。

「俺は、こんなとこ連れて来て貰ったかって、喜ばへんからな」

でも長いこと一緒にいて分かった事は、コイツは他人が評価するよりもずっと子供だということだ。大人振るのが上手いだけの子供。子供らしくいることが下手な、子供。今だって帰りたいと駄々を捏ねている態度は大人のそれとは言えない。

「白石ぃ。遊園地はな、大人かって楽しいねん。子供だけが楽しむなんてセコイ場所ちゃう」

「…やって。周りはガキばっかや」

「春休みやから家族連れが多いだけやで。ほら、カップルもぎょーさんおる」

「…」

疑うように周りを見渡す白石と、前売りで買ったチケットが無駄にならないかとハラハラする俺。
入り口付近ではそんな俺たちさえ気に止めずそれぞれの世界に浸り楽しそうに笑い合う人々。

「…分かった。行く」

その返事に心の中でどっと安心した俺は白石の気が変わる前にさっさと園内へ入場した。

周りの賑やかな風景や騒ぎに白石の顔は先程よりは穏やかなものになっていた。





*





「あー、楽しかった!」

アトラクションを一通り周り、閉園も近くなった頃。この遊園地限定のハチミツポップコーンを食べながら白石は満面の笑みでそう言った。
あー、そうそう。その笑顔が見たかったんや。
その笑顔がみたくて、俺は仕事を詰め車を走らせ金を払った。年甲斐も無く連続して絶叫マシンに乗ったことも少し御菓子を食べ過ぎたことも白石がいれば全てが甘い思い出になろうとしている。

「…あ。なあ。あれ、買ってや」

遊園地から出ようとした時だった。
移動式のカートを引きながら森のクマさん(着ぐるみを来た人)が沢山の風船を持って此方にやってきた。
遠くからみれば飴玉のようにも思えるカラフルなそれはふわふわと誘うようにぶつかり合っている。

「風船?ええけど、これ空に飛んでくやつやん、気ィつけてや」
「分かってる、あの赤いンがええ」

森のクマさん、風船一つ、頂戴。
そうして何枚かの硬貨と引き換えに白石の手首にはぐるっと紐が巻き付けられる。風船を嬉しそうに見上げている白石を見て此方まで微笑ましい気持ちになった。

「なあ、この風船て空に行ったらどうなるん?」
「さあ…多分、割れる。気圧とかの関係で。試すなよ」
「試すか。…そっかー、割れるんかー」

ぼわんぼわん。
白石が手を動かすたびに目の前で揺れ動く風船はまるで離してくれと言わんばかりに宙を浮いていた。

「なんかオサムちゃんみたいやな」
「なんやそれ」
「こうやって、繋いどかなすぐどっか行く」
「…」
「俺なんかいらんって、どんどん先に行ってまうんや」

白石は俺のジャケットの裾をきゅっと握りながら切な気な表情をしてポツリとそう言った。
……こいつは、アホなんか。?

「俺が風船て…やめろ。俺はそんなふわふわと軽ない」
「見た目の話ちゃう」
「同じや」

白石曰く、それは一回りは違う年齢だったり。そういう事らしい。
それは俺たちの間ではタブーな問題だ。年齢なんか10歳以上離れてる上に、生徒と教師なんて。

「大人は、ズルい」

そう漏らす白石の口癖はもう何度目になるだろうか(後100回は聞くことを覚悟している)
そう言うけど…。
俺からしてみればお前の方がズルいわ。
散々俺という大人を弄んでる。楽しんで、泣いて、好きだと言って、時には嫌いだと暴言を吐いて。お菓子感覚で俺を求めてる。俺なんかとっくに賞味期限切れ寸前な年齢やで。お前が大人になる頃、俺はーー…、。
とにかく、犠牲にするもんはお互い様や。
お前は二度と戻らない青春という時期を俺に捧げて、俺は腐りかけの身で常にギリギリの選択を迫られている。

「…子供は、面倒やな」

精一杯の言い返しだった。
頭では分かっている。考えて考えて、それでも。
この子と一緒に居たいと。
今だけは、そう思ってしまう。


130329














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