ジローと初めて会ったとき、俺は童話の眠り姫を思い出した。同時に眠り姫とは男だったんだと、そう自然に思うくらいジローは学校の芝生で死んだように眠っていた。その顔が偽物みたいにとても綺麗だった。芝生の緑はイバラの棘を想像させ、閉じられた瞼は氷で凍っているように固まっていてちょっとやそっとじゃ開かないだろうなあと思うと俺は遠慮なしにその寝顔を観察した。
男の寝顔に見入るなんて、正直自分でも気持ち悪いと思ったけれど、ジローの存在に惹かれる自分は相手が男や女という概念なんてものを忘れていた気がする。
例えば空に打ち上がる花火を綺麗だと思ったり、宝石の輝きに目を奪われたり。
存在だけで視線を持っていかれるような感覚に似ている。そんな単純な理由だけで、俺はまだ話をしたことのないジローに惹かれていったのだと思う。







*



「忍足さぁ、たまに俺のことじーっと見るよね。それ誘ってるの?押し倒していいの?犯すよ?」

「や、誘ってへんし、ここ学校やしアカンに決まってるやん」


同じテニス部に入ったジローとは、割とすぐに仲良くなれた。仲良くなりすぎて、今では友情の一線を越えている位。そう、俺たちは中二の夏に付き合いだした。告白はジローから。「好きだから付き合って欲しい」という素直で率直な告白に俺は二つ返事で頷いた。中二の俺にとって初めての恋人でその相手がジローだということが嬉しかった。自分はゲイではないけれど、ジローなら男でもいいと思った。むしろ下半身に両方の性器を兼ね備えていたとしても、ジローならそれはそれでアリだと思えるくらいに、俺はジローが好きだったのだ。


「ちゅーかお前、そんな可愛い顔して犯すとかホンマやめて…」

「忍足ってそういうとこ厳しいよなぁ。俺顔かわいくねーし忍足の方がよっぽど可愛いよ」


俺とジローの容姿を見てどちらが可愛いと思いますか?と待ち行く人に質問すれば全員が全員、ジローのことを指差すだろう。小柄で色素の薄いふわふわした髪は小動物みたいで、俺とは正反対の彼はその辺の女子よりも可愛いと思う。見た目は。付き合っていく内に分かったことは、彼の中身は見た目に反して相当サバサバしているということ。男前、といえば聞こえはいいが所謂ギャップ萌えという言葉が彼にはよく当てはまる気がする。
まず言葉遣いがあまりよろしくない。ガサツだし、細かいことは気にしないし、部活に跡部という王様がいるせいで霞んでしまうけれど、ジローも相当な俺様だと俺は思う。


「大体さぁ、忍足は分かってないよね自分の可愛さに。俺その辺の女よりも忍足は美人だと思うし足もきれいだし肌も目も髪も全部きれいでさ」

「や、やめろやそういうの。ほんま、無理」


その上俺に対しての溺愛ぷりは半端ではない。ジローの真っ直ぐな素直さは嬉しくも恥ずかしい。俺は顔を近づけられて可愛いなんて言われて、顔を赤くして。客観的に自分を見ると男のくせに情けないしこんな自分が気持ち悪いとすら思った。


「はは。顔真っ赤。かーわいい」


俺からすればそうやって笑うジローの方が何倍も可愛い。その反面、いざという時は引っ張って行ってくれる細い腕をかっこいいと思う時もある。その腕は俺をどこにでも連れて行ってくれる。そんな気がする。あの空にだって、ジローなら連れて行ってくれそうな気がするのだ。



「なあ次サボりたい、眠い」

「アカン、次小テストあるんやろ」

「うわ、ますます眠い嫌だ」

「そんなん言わんと、出そうなとこ教えたるし行こうや」

「えー…」

「えーやない。行くで」

「じゃあキスしてくれたら行く」

「は?」

「キス、してくれたら行く」


じゃあ知らん、一人で寝とけ。
そう心の中で言ったものの何故か言葉には出なかった。ジローのワガママは調子にのるとロクなことがない。それは付き合っていく中で学んだこと。ジローは場の空気を自分の流れに持っていくのが上手い。それに流されて俺は何度も反省した。過去の例をあげるなら、一緒にサボったことが跡部にバレて校庭を100周させられたこと。屋上でキスされそのままセックスをしたこと(しかも2度、その後早退した)
ここは流されては行けない。俺に学習能力があるならジローを置いてでも教室に行くべきだ。心を鬼にして突き放すのも愛情なのだ。

「…………ダメなの?」

「…………」



俺の心は脆い。3秒前の決心は細い枝のようにポキリと折れた。おねだりをされて、すぐに拒めない。頭では分かっているのに、ジローを掴む手の力が弱くなる。それに眉を下げてお願いされては俺が酷いことをしている気になる。なんか複雑だ。
もやもやと葛藤している俺に痺れを切らしたのかジローは得意のおねだりをやめて俺の手を引く。

「!?」

「あー、じれったい。焦らされるの嫌い」

キスして、と言ったくせに自分からキスをするジロー。重なった唇は溶けるくらい柔らかい。気持ちいい。この感触に、俺は思考の全てを奪われる気がする。


「忍足好き。好き」


好きな人に愛の言葉を囁かれながら、愛の接吻を与えられる。ありふれた言葉を使うなら、死んでもいいくらい幸せだ。
俺は流されているのではなく、流されているふりをしてジローの誘いに自ら乗っている。ジローと一緒に流れる波は、この世の何よりも心地よくて幸せだ。いけないことだという背徳感がその波を更に速くさせるよう、俺はジローの身体に手を回していた。


「ん、は…っ」


結局その日は屋上でキスの続きをしてしまった。授業も当然サボり。しかも日影で隠しきれなかった首の後ろが日焼けしてしまい、次の日はそこが赤くなってヒリヒリと痛かった。
それをジローに言うと「じゃあ今度は保健室でシよう」と進歩のないことを言われて俺は呆れてしまうのだけれど、ジローの笑顔を見るとそんなことさえあっさりと忘れてしまうのだ。




160729














ジローと初めて会ったとき、俺は童話の眠り姫を思い出した。同時に眠り姫とは男だったんだと、そう自然に思うくらいジローは学校の芝生で死んだように眠っていた。その顔が偽物みたいにとても綺麗だった。芝生の緑はイバラの棘を想像させ、閉じられた瞼は氷で凍っているように固まっていてちょっとやそっとじゃ開かないだろうなあと思うと俺は遠慮なしにその寝顔を観察した。
男の寝顔に見入るなんて、正直自分でも気持ち悪いと思ったけれど、ジローの存在に惹かれる自分は相手が男や女という概念なんてものを忘れていた気がする。
例えば空に打ち上がる花火を綺麗だと思ったり、宝石の輝きに目を奪われたり。
存在だけで視線を持っていかれるような感覚に似ている。そんな単純な理由だけで、俺はまだ話をしたことのないジローに惹かれていったのだと思う。







*



「忍足さぁ、たまに俺のことじーっと見るよね。それ誘ってるの?押し倒していいの?犯すよ?」

「や、誘ってへんし、ここ学校やしアカンに決まってるやん」


同じテニス部に入ったジローとは、割とすぐに仲良くなれた。仲良くなりすぎて、今では友情の一線を越えている位。そう、俺たちは中二の夏に付き合いだした。告白はジローから。「好きだから付き合って欲しい」という素直で率直な告白に俺は二つ返事で頷いた。中二の俺にとって初めての恋人でその相手がジローだということが嬉しかった。自分はゲイではないけれど、ジローなら男でもいいと思った。むしろ下半身に両方の性器を兼ね備えていたとしても、ジローならそれはそれでアリだと思えるくらいに、俺はジローが好きだったのだ。


「ちゅーかお前、そんな可愛い顔して犯すとかホンマやめて…」

「忍足ってそういうとこ厳しいよなぁ。俺顔かわいくねーし忍足の方がよっぽど可愛いよ」


俺とジローの容姿を見てどちらが可愛いと思いますか?と待ち行く人に質問すれば全員が全員、ジローのことを指差すだろう。小柄で色素の薄いふわふわした髪は小動物みたいで、俺とは正反対の彼はその辺の女子よりも可愛いと思う。見た目は。付き合っていく内に分かったことは、彼の中身は見た目に反して相当サバサバしているということ。男前、といえば聞こえはいいが所謂ギャップ萌えという言葉が彼にはよく当てはまる気がする。
まず言葉遣いがあまりよろしくない。ガサツだし、細かいことは気にしないし、部活に跡部という王様がいるせいで霞んでしまうけれど、ジローも相当な俺様だと俺は思う。


「大体さぁ、忍足は分かってないよね自分の可愛さに。俺その辺の女よりも忍足は美人だと思うし足もきれいだし肌も目も髪も全部きれいでさ」

「や、やめろやそういうの。ほんま、無理」


その上俺に対しての溺愛ぷりは半端ではない。ジローの真っ直ぐな素直さは嬉しくも恥ずかしい。俺は顔を近づけられて可愛いなんて言われて、顔を赤くして。客観的に自分を見ると男のくせに情けないしこんな自分が気持ち悪いとすら思った。


「はは。顔真っ赤。かーわいい」


俺からすればそうやって笑うジローの方が何倍も可愛い。その反面、いざという時は引っ張って行ってくれる細い腕をかっこいいと思う時もある。その腕は俺をどこにでも連れて行ってくれる。そんな気がする。あの空にだって、ジローなら連れて行ってくれそうな気がするのだ。



「なあ次サボりたい、眠い」

「アカン、次小テストあるんやろ」

「うわ、ますます眠い嫌だ」

「そんなん言わんと、出そうなとこ教えたるし行こうや」

「えー…」

「えーやない。行くで」

「じゃあキスしてくれたら行く」

「は?」

「キス、してくれたら行く」


じゃあ知らん、一人で寝とけ。
そう心の中で言ったものの何故か言葉には出なかった。ジローのワガママは調子にのるとロクなことがない。それは付き合っていく中で学んだこと。ジローは場の空気を自分の流れに持っていくのが上手い。それに流されて俺は何度も反省した。過去の例をあげるなら、一緒にサボったことが跡部にバレて校庭を100周させられたこと。屋上でキスされそのままセックスをしたこと(しかも2度、その後早退した)
ここは流されては行けない。俺に学習能力があるならジローを置いてでも教室に行くべきだ。心を鬼にして突き放すのも愛情なのだ。

「…………ダメなの?」

「…………」



俺の心は脆い。3秒前の決心は細い枝のようにポキリと折れた。おねだりをされて、すぐに拒めない。頭では分かっているのに、ジローを掴む手の力が弱くなる。それに眉を下げてお願いされては俺が酷いことをしている気になる。なんか複雑だ。
もやもやと葛藤している俺に痺れを切らしたのかジローは得意のおねだりをやめて俺の手を引く。

「!?」

「あー、じれったい。焦らされるの嫌い」

キスして、と言ったくせに自分からキスをするジロー。重なった唇は溶けるくらい柔らかい。気持ちいい。この感触に、俺は思考の全てを奪われる気がする。


「忍足好き。好き」


好きな人に愛の言葉を囁かれながら、愛の接吻を与えられる。ありふれた言葉を使うなら、死んでもいいくらい幸せだ。
俺は流されているのではなく、流されているふりをしてジローの誘いに自ら乗っている。ジローと一緒に流れる波は、この世の何よりも心地よくて幸せだ。いけないことだという背徳感がその波を更に速くさせるよう、俺はジローの身体に手を回していた。


「ん、は…っ」


結局その日は屋上でキスの続きをしてしまった。授業も当然サボり。しかも日影で隠しきれなかった首の後ろが日焼けしてしまい、次の日はそこが赤くなってヒリヒリと痛かった。
それをジローに言うと「じゃあ今度は保健室でシよう」と進歩のないことを言われて俺は呆れてしまうのだけれど、ジローの笑顔を見るとそんなことさえあっさりと忘れてしまうのだ。




160729










































←] | →


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -