頭の中はいつもぐしゃぐしゃだった。自分の手も入らない脳味噌をどうやって整理したらいいのかも分からず、色々な感情がミキサーされていくだけの器は心に憂鬱という感情を投下した。





「青峰っちが可愛い可愛い幼稚園児を好きになったとして諦める?もし好きな子がお婆さんだったら。もし好きな子が、最早この世の人じゃなかったり、ていうかそもそも人じゃなかったり。物だったり、風景だったり、何か届かないようなものだったり、ねえそういうときの恋心ってどうしたらいいのかな。そもそも、恋心が報われるってどゆことなんだろう。両思いになったら、ってこと?そこらへんに溢れてる両思いの数とそうじゃない人の数を引き算したらプラスになるかな、マイナスになるかな。俺はマイナスになると思、」

毎週日曜日のBGM。俺が朝ごはんを作る束の間のあいだ。背後で朗読されるのは黄瀬の心の、、ポエム?(分かんねぇ、)俺の気を引くためだけの訳の分からない考えや言葉もに一々解釈は入れないことにしている。ソーセージに包丁で切り身を入れている間もただ卵を割りかき混ぜてフライパンに落とす作業の間も、黄瀬はずっと俺の背中をしがみついて離れない。
それは毎週日曜日、それも午前中だけが俺たちの時間が唯一混じり合う貴重な時間だから。その間だけはせめて離れたくないのだという黄瀬の主張だった(それにしてもこれは、)(くっつき過ぎて動きにくい、というか)(正直鬱陶しい…)
同棲しはじめた当初はその行為が鬱陶しくて一度黄瀬を引っ張ねたことがあった。すると黄瀬はその日一日泣き続けた。(仮にも成人して、働いている大人が、だ)それはうるさいというレベルではなかった。鳴り止まない警報器みたいな。とにかく鬱陶しかった。同じ鬱陶しいならば俺の側を離れず笑顔で戯言を聞かされる方がマシだと思った。その結果がこうだ。俺がトイレに行く間ですら狭い個室に入ろうとする。流石にそれは俺も辛い。そいうときは大丈夫だから、どこにもいかねぇから、なんてガキを持つ親みたいな事を言って扉を閉める。そしてなるべく早く用を足す。
なんて馬鹿な。日常。
疲れ、

ないはずがない。


「あ、俺砂糖多めがいい」

「はァ?お前さっき塩がいいって、」

「気分変わったんスよー」

でも俺は黄瀬の泣き顔が見たくない。それを黄瀬は知っている。俺が黄瀬の我儘に少しでも反論しようもんなら黄瀬は泣くことを繰り返した。俺は黄瀬の我儘を聞く以外に選択肢はなかった。一度甘やかすととことん我儘になった黄瀬は甘い声と甘い笑みで俺に気紛れな言葉を押し付ける。
午前7時。俺が練習に出るまで後1時間。黄瀬が仕事に行くまで後3時間。
あと1時間。同棲してからのたった1時間半を俺たちはちまちまと積み重ねていく。

「青峰っち、…ねぇ、」

甘い声で名前を呼ばれ、振り返るとキスをされた。柔らかくもない唇。でも俺はこいつの唇しか知らない。

「シたい、ねぇ、…いい?」

「……」

何もかも手にして、何もかも自由にしているようなこいつが俺を欲しいだなんて言う。確かにその口で、欲しいと言うんだ。それってなんか、気持ちいいような。他の奴にはない魅力が俺にあるって知らされているようで馬鹿みたいな優越感があったりする。(まぁ、それは秘密)焼いたばかりの卵焼きもウインナーも、いつも冷めた状態でしか食えないのはこれから始まる愛の作業のせいで、でもこの習慣から俺も黄瀬も抜け出せなくて(そもそも抜け出したいなんて思ってないのかもしれない)
うざい、鬱陶しい。そう思っているだけで自分はまだコイツなしでも生きていけるんだと言い聞かしている。今日も。昔から。




121201









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