帝光中時代


自分は要領良く生きているタイプだと思っていた。
今も昔も。これからも。何となく過ごして何となく行動していればそれなりに物事は上手くいっていたし、特に大きな悩み事を抱えたこともない。若いときは金を出しても苦労を買えと言葉もあるが本当に金を出して苦労を味ってみようかと思うくらいに俺の人生は平々凡々で退屈なくらい淡々としていた。


「とりあえず笑ってりゃ、大抵のことは上手く行くんスよね。そりゃ限度はあるけど何事もなけりゃそれで結果オーライだし」

「んだよいきなり。つーかお前授業は?」

「そっちこそ」

真上に昇っている太陽はこの屋上をジリジリと照りつける。扉の裏側で僅かに影が出来ている貴重な場所に青峰は座っていた。
人の会話でうるさい教室とは違い誰もいない屋上は静かで開放的なのだけれど何処か閉鎖的だ。この場を囲う高いフェンスのせいだろうか。
空を遮るものがない箱庭の中で青峰が授業をサボるのは珍しいことではなかった。
義務教育も受けず優雅に足を伸ばしている青峰を見て何様だと思ったが、当の自分も人のことは言えないので黙っておくことにする。

「出席単位大丈夫なんスか?」

「分かんね、数えてない」

「適当だなぁ…」

気だるそうな青峰の隣に座った。
ボールに触れている時とは違いだるそうに閉じていく瞼をこっそりと盗み見る。

「青峰っちは毎日飽きずにこんな所にいて楽しいっスか」

「あァ?…別に、楽しいとか楽しくねぇとかないけど」

「俺は退屈だなぁ。此処にいても授業にでても」

「知らねぇって」

「たまには刺激とか、欲しいんっスよね俺」

「贅沢言うんじゃねぇよ」

「だって詰まんないし」

「無い物ねだりも程々にしなきゃただの嫌味だぜ」

閉じかけていた瞼は閉じきらずに僅かな隙間だけで俺を見る。
ドキリ、と。俺だけが静かに胸を高鳴らせた。

「…嫌味なんてまさか。そんなつもりはないっスよ」

ただ障害物のない道はただの道でしかなくてどこにフラついたって俺っていう人間は歩けてしまう。イヤホンで音楽を聴きながら優雅に散歩をするような生活だ。
しかし最近面白いと始めたバスケですら似たような感情を持ち始めたあたり、自分には目標を持って生きることに向いてないのだろうかと思う。
初めに抱いてたあの情熱を忘れた訳ではない。ただ慣れただけなんだと思いながら言い訳をしてる。

「うぜぇ…」

普段の俺とは明らかに違う陰気くささに青峰も機嫌が宜しくないのが伝わって来た。


「テメェは能天気な癖にそうやって難しく考えたりするのがいけねェ。そりゃフリなのか?構って欲しいんか。能天気キャラなら能天気らしくしてろや馬鹿。イライラする」

「構って…、うん、そうだな、構っては、欲しいかもしれない」

「余所当たれ、」

「青峰っちに構って欲しいんスよ」

じっと近い距離で視線を合わせた。
少しだけ狼狽える青峰に構わず俺は真剣な視線を離さない。
俺の毎日は退屈で平凡、それなりに何でも上手くやってきた。つもり。
ただ一つ回避したい事があるなら隣にいる、コイツだ。青峰に対しては何もかもが上手く行く気がしない。空振る、っていうのかな。俺は昔どうやってコイツに接していただろう。どうやって笑ってただろう。というか、いつから青峰をみて、…好きだなんて思うようになったんだろう。
例えば彼の隣に居るだけでキモイくらいドキドキしてるこの気持ちの理由を打ち明けたとしたら、それでも青峰は俺に笑ってくれるのだろうか。何度も繰り返した理想の中で「俺もお前が好きなんだ」と、言ってくれる青峰を俺は見れる日が来るのだろうか。


「……なーんて。」

拒まれるのが怖くて臆病になる。その臆病さはヘラヘラした笑顔で取り繕ってなるべく傷つかないための予防線を貼るんだ。そんなこと続けてたら肝心なことが言えなくなってた。
上手く笑えない。顔がひきつる。好きなものを好きって言えない。
拒まれるのが怖い。
俺にそう思わせる唯一の人。
青峰は今度こそ黙って目を閉じてしまった。聞き飽きた俺の戯れ言から夢の世界に逃れてしまったらしい。

「俺もその夢につれてってくんないかなー…」

ぼやいた言葉は自分だけにしか届かなかった。


120901





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