運命なんてないと思う。出会えた奇跡って一体なんなんだ?地球上にはこれだけの人がいて、その中で俺と青峰が同じ場所で育ち、同じ学年、同じ性別でいることってそんなにすごい事なのだろうか(そんな奴いくらでも居るだろう) ただ俺が生まれて青峰が生まれたという事実が平行に流れて、それこそ「偶然」という言葉で十分片付いてしまう位に、この現実に大した意味はないんだと思う。
*
「なーにやってんのお前」
「あ、青峰っち。俺卒アル委員なんスよ。どの写真がいいかなーって思って」
放課後、俺は現像を済ませた写真たちを机に並べていた。真面目にピースをしている写真、ふざけて転んでいる写真など。見ているだけで微笑ましくなるような、じんわり切なくなるような気持ちが渦巻いた。 青峰が俺の前の席に座り、それらを手にとって眺める。
「お前の写真は?」
「ああ、なんか女の子たちがもってっちゃって…はは。明日帰ってくると思うんスけど」
「人気者は大変だな」
「お互いさまでしょ」
「俺の写真撮る女なんていなかったぞ」
「それはきっと…」
(隠し撮りとか、してんスよ。) なんて言ってやんないけど。青峰は自分がどんだけモテるのか自覚してないから嫌になる。自覚されても嫌だけど。無防備だなぁって、心配になる。それ以前に自分への人気や好意など本人は気にしていないようだけど(少しは気にしろ)
「お前寂しいの?」 「は?」 「卒業」 「なんでいきなり、」 「そんな顔してたから」
不意に聞かれた事への内容に俺は目を丸くした。「面白れぇ顔」なんて青峰は笑ってた。呑気なもんだ。
「別に、寂しくないし…つか、青峰っちは寂しくないの」 「なんで俺が?」
俺はきょとんとする。 なんで俺が、って。まるで自分には関係ないみたいな言い方だ(一応卒業生なんだよアンタ)確かに青峰が卒業式で泣いてるところなんて想像出来ない。むしろ式の最中ですら大きく欠伸したり寝てそうな姿の方が想像できた。 青峰にとっては卒業式すら「ただの一日」なのだろうか。
「なぁこれいつ終わんの?早く帰ろーぜ」
「青峰っちは…」
「あ?」
「寂しくないんだ」
「しつけーなぁ…」
心底だるそうにして溜め息をつく青峰に俺は胸の中がもやもやとし始めた。しつこいって何だよ。仮にも俺たち付き合ってるんじゃないの?卒業するってどいういうこか分かってんのか。高校生になるって、どういうことか分かってんのかよ。
「青峰っちは、…俺に会えなくなっても平気なのかよ」
俺はいつになく真剣な顔をしていたと思う。今度は青峰が驚いたように瞬きを止めていた。 俺たちは、もうそれぞれに違う進路を決めていた。 そしたらこうして教室で会話することもなくなる。一緒に帰ろうなんていう当たり前みたいな約束も必要なくなる。
「俺は……嫌だ…」
「んな事言ったって…違う学校行くって決めたのはお前の意思だろ」
「そうだけど、」
「だったら言ったって仕方ねェよ」
俺の気持ちは「仕方ない」なんて一言で片付けられる。そんなもんなの?青峰にとって、俺と会えなくなることは仕方ないで済ませることなんだ。 俺は言い出した言葉が止まらなかった。
「そんな言い方…」
「本当のことだろ」
「青峰っちなんて、俺が好きって言わなきゃ好きになってくれなかったくせに!」
「んだそれ…お前だって俺がバスケしてなきゃバスケしてねェだろうがッ」
「そうだよ、そう。青峰っちがいたからバスケしてんだよ、俺。青峰っちがいたから、俺…こんなんなんだよ…青峰っちがいなかったら俺はずっとあの頃のままで、でも青峰っちは俺がいなくてもあの頃のままで、」
「……」
「俺がいてもいなくても、青峰っちは変わらない。変わったのは俺だけだ。いつも、俺ばっかり変わってく」
そう、俺は変わってしまった。青峰が誰かと話しているだけで苛々してしまうこと、青峰が一瞬でも俺を目に映さないときの不安。 こんな醜い気持ちは知らなかった。きっと知らずにいれば今こんなことで苦しい思いをすることもなかった。飽きることのない青峰への気持ちとやまない欲望は俺をどうしようもなく貪欲にさせる。
「俺…嫌だよ、離れたくない。なのに、なんで、離れなくちゃ行けないんスかぁ…」
我儘なのはわかっている。今まで時間が流れていくことに何の疑問も抱かなかった。朝がきて夜がきて、今日が終わって明日が始まる毎日。俺には戻りたいと思えるような過去も進みたいと思えるような未来もなかった。まして立ち止まりたいと思えるような「今」も。 でも青峰となら初めて、ずっとこのままでいたいと思ったんだ。過去も未来もいらない。このまま。このままがいい。青峰といる今、この一瞬がいいんだ。いっそ写真のように閉じ込めてしまいたい。青峰と出会ったあの一瞬を。 青峰が俺を好きだと言ってくれたあの一瞬ごと永遠になればいのに。 なんでそれが出来ない。望まないのに進んでいく。望んでいるのに戻れない
「お前…さぁ」
「なん、スか」
「俺が変わってねェとかお前が変わったとか、それの何がいけねェんだよ」
「は…変わるって、戻れないって事っスよ?俺、あんときみたいに、ずっとアンタと笑ってたいだけなのに」
「そう言ってる本人が泣いてんじゃねーか」
「…っ、だって青峰っち、寂しくないとか、言、から…」
「卒業の話だろ」
「だから、卒業したら俺たち、」
「…俺、お前と離れる気ないんだけど」
「…え」
「学校違うからって何なの。毎日会えないからってお前の気持ちは変わんの?俺はお前の言うとおり変わんねェよ。これからもな。それはお前が好きだっつー気持ちも、ずっとだ」
なんだよそれ。好き、と、か。サラっと言ってんなよ。簡単に、言うなよ。 俺はこんなに悩んで悩んで、不安なのに。全部全部、なんてことない顔して言うな。
「う…ぅ、…駄目っスよぉ…俺毎日…メールするかも。電話もするかもしれない。しつこく会いにだって…行くかもしれない…」
束縛だって嫉妬だって今以上にひどくなるよ。青峰が思うような理想の恋人になんかなれない。それでもいいの、ねぇ、それでも、青峰は俺のこと離さないでいてくれる?泣きながら俺がそう言うと、「それ今と何が違うの?」って、やっぱり青峰は笑ってた。
「ずりぃ、….ス…」
俺の汚い雑念とかぐしゃくじゃしたもん全部、なんてことない顔して俺をかっさらってく。俺が伸ばした手を握り返してくれる。俺が泣くと仕方ないと呆れながら笑ってくれる。 それがたまに見れないくらい眩しいよ、俺には。
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