はぁ、はぁ、は、あ。


持久力はある方だと思う。
バスケを始めたお陰で筋肉も付いたし体力にも自信があった。

そんな俺が息を切らしても尚走り続けている理由。それは部活仲間である5人とのやりとりから始まった。











「結局さぁ、黄瀬ちんて誰のモンなの?」

レギュラーのみでの夜連を終え体育館の隅で着替えていた時の事だ。一番早く着替え終わった紫原は棒付きの飴を咥えながらそんなことを言い出した。


「何かと思えば、そんなくだらないことを聞くんじゃないのだよ」

「そうだぜ。テメェは頭ン中までふわっふわかよ」

「愚問、だな」

「紫原くんてたまに馬鹿ですよね」

紫原の発言に対し好き勝手言い合うメンバーを横目に俺は着替えを続けていた。バラバラだった言葉が交差する中皆これだけは揃って発言する。

「「「「「俺(僕)のですが」」」」」

空気が固まった。俺もネクタイを締める手が止まった。

「はァ?何言っちゃってんの、黄瀬ちんは俺のなんだけど」

「何でテメェのモノなんだよ、名前でも書いてあんのか」

「それを言う貴様の名前もないだろう」

「黄瀬くんは文房具や教科書じゃないんですからそんなもの必要ないでしょう」

「俺も黒子に同感だ。そんなものなくても誰のモノだなんて周知の事実なんだからね」

空気が段々不穏なものになっていく気がした。(これ俺の話題なんだよね?)恐る恐るメンバーを見るとみんな目が据わっていた。

「黄瀬に選んで貰おうぜ」

「構わないが、名前を呼ばれないからと言って逆恨みはしないで欲しいのだよ」

「どの口が言ってんの?みどちんは自分が選ばれると思ってる?ウケるんだけど」

「俺はお前らのその自信が謎だね」

「その言葉そのまま赤司くんに返します」

ばちばちと火花さえ見える。身長もガタイも良い青峰、紫原、緑間は勿論、普段から冷徹な鬼のように怖い赤司と、逆に普段は大人しいのに棘のある言葉を話す黒子。彼等の言い争いは見ていてとても物騒だった。
しかも内容が自分を争う(?)ようなこと。俺のために喧嘩しないで!なんて漫画のヒロインのような振る舞いは俺にはできなかった。
なお、ここまでは割と日常茶飯事な会話なので俺はあまり気にしないでおこうと思い、早く帰ろうとカバンを手にとった時だった。
紫原が何かをひらめいたようにポンッ、と手を叩いた。

「そーだ、みんなで鬼ごっこしようよ」

「鬼ごっこォ?」

「この人数でか」

「うん。ただ鬼は俺たち5人。黄瀬ちんを先に捕まえた鬼が黄瀬ちんをゲットできんの」

ふざけているのか真面目なのか分からない顔をして紫原は勝手なルールを説明しだした。赤司は何かを考えるように顎に手を当てている。いつもはメンバーの規律や秩序を纏める彼のことだ、こんな馬鹿馬鹿しい話も穏やかに収めてくれるのかと思った。

「……まぁ、悪くない」

俺の予想に反して赤司はそう言った。

「なかなか理にかなっているのだよ」

理、の意味を分かっているのかお前は。

「楽しそうだなそれ」

何故か再びストレッチし始める青峰。


「僕は隠れる方が得意なんですけどね…」

少し困ったように呟く黒子。


「じゃあテツは離脱すっか?」

「まさか。隠れるのが得意な分隠れ場所を見つけるのもまた得意なんです」

先程までバラバラに意見し対立していたメンバーが妙な纏まりをみせてきた。
俺の背筋にはバスケで流した汗ではない汗が流れる。

「じゃあ決まりだな。ルールを細かく決めよう。範囲は学校内のみ。外に出るのは禁止。先に黄瀬を見つけて、此処に連れてきた者を勝ちとする。見つけても逃げられたら意味がないからな」

赤司持ち前の統率力でメンバーに指示を出す。それぞれは異論がないと言った風に頷いた。
何を話しているんだコイツらは馬鹿なのか?と思いながら会話に夢中なメンバーの目を盗み俺はコッソリ、体育館を出ようとした時だった。

「黄瀬くん」

「!」

背後にいたのは黒子だった。
気配を消していた俺よりも気配を消して出て行こうとした俺の腕を掴む。


「僕等本気なんです。だから、黄瀬くんにも本気で受け止めて欲しい。僕等を」

「黒子っち…」

昔から黒子に何かを頼まれると弱かった。黒子と話していたことで周りのメンバーも俺が逃げようとしたことに気付いたらしい。

「家に帰るまでが夜練だ。俺はまだ解散と言った訳ではない。黄瀬、分かってるな」

ついでに赤司に命令されて刃向かうほど俺は強くなかった(彼に逆らって無事だった奴を俺は知らない)


「〜…っ、分かったっスよ!アンタらホント馬鹿、隠れりゃいいんでしょ、隠れりゃ!その代わり朝が来たら帰るっスからねッ」

「了解だ、じゃあ朝が来たら。太陽が昇るまでお前が無事逃げられたらお前の勝ちにしよう」

「…っ」

隠れればいい。捕まえられなければいい。
そんな軽い気持ちだった。
俺は遊びに付き合ってやる位の気持ちで承諾した。安易に頷いたこの瞬間の事を後あとものすごく後悔することになる。

「隠れる時間は10分…、いや30分待とう。その間俺達はここを動かない」

「オッケーっス。その代わり俺が勝ったらアンタ等全員俺の奴隷っスからねッ!」

言われっぱなしも悔しいので俺はそう言い放って夜の校舎へ走った。

まだ月が高い。
夜明けはまだまだ先だ。
体育館に残してきた5人の鬼達の怖さをこのとき俺は想像もしていなかった。







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