17


「ナマエ! 良かったー! プレート集められたんだね!?」
「ゴン! レオリオのプレートも集まったんだ!」

第4次試験終了後、スタート地点に戻ると真っ先にゴンが駆け寄ってきた。
嬉しそうに笑ってくれる彼の後ろには、クラピカとレオリオの姿もある。みんな無事に通過できたことにほっと胸を撫で下ろした。
向かい合ってにこにこと笑ったあと、ゴンは私の後ろに立つキルアに視線を向けた。

「キルアが一緒に戦ったんでしょ?」
確信を持ったその言い方に、私は目を瞬いた。
「そうだけど……なんでわかるの?」
「あの時、キルアがどこかで見てるのが分かったから」

“あの時”とは、ゴンがポックルを見付け、私が一人で残ると言い張っていた時。
なかなか納得しなかったゴンが急に引き下がったのを思い出し、ようやく合点がいった。

「ゴンにしか分かんねー程度に気配出したからな」
「そんなことまで出来るのかオメーは」
「つーか、レオリオたちが鈍いんだよ」
「んだとぉ!?」

飽きずに口論を始める二人を尻目に、他の通過者を確認しようと周囲を見回した時だった。
思いがけない人物の姿に、私は目を丸くした。

「ポックル!?」

つい前日、私がプレートを奪ったポックルが茂みから姿を現したのだ。
驚き思わず声を掛けると、ポックルもこちらに気付く。居心地悪そうな視線を向けながら――私(主にキルア)にプレートを奪われたのだから当たり前だが――それでも、こちらに歩み寄ってきてくれた。

「へー、あのあとプレート集めたの? 意外とやるじゃん」
キルアの生意気な台詞に、眉をピクリと動かしたものの、気を取り直したように私を見た。私はプレートを奪った手前、なんだか気まずくて視線を泳がせた。
「24時間切ってたのに、どうやって……」
「……実はあの時点で、オレは8点分のプレートを持ってたんだ」

ポックルはぽつりと呟くように話した。まさか、そんなに確保していたなんて。驚きに目を丸めながらも、口には出さなかった。キルアがまたしても生意気な言動を繰り出すのがなんとなく分かり、視線はポックルに向けたまま肘鉄を入れた。油断していたらしく、「グッ!」と唸っている。

「……どうりで、やけにすんなり渡したわけだ?」
腹をおさえながらもキルアは言った。
「ああ。お前たちにオレのプレートを取られても、5点あったからな」
「この短時間であとの1点を取れたのも凄いよ」
「……実は、偶然拾ったんだ」

なんと、ラッキーなこともあったものだ。私が感嘆の声を上げると、ポックルはポケットに手を突っ込み一枚のプレートを取り出した。その番号を見て、私とキルアは納得したのだった。
どこか懐かしい、197番の数字が輝いて見えた。






通過者10人を乗せた飛行船は、最終試験会場に向けて飛んでいた。残る試験もとうとう一つ。これに合格すればハンター証が手に入り、身分証明に困ることもなくなる。そして恐らく、自分の記憶を紐解く手がかりも見つけられるだろう。
だが自分がここまで来れたのは、ほとんど人のおかげだ。最終試験の内容は分からないが、恐らく自分一人で切り抜けなければならない課題が出る。そうなった時、私にどこまで太刀打ちできるだろう?

悶々としながらも、飛行船内の食堂で一人、夕食をとることにした。手に持ったトレイを机に置き腰掛けた時、同じようにトレイを抱えたゴンが向かいの席を示しながら、「ここ良い?」と尋ねた。
頷きながら、その表情や声色が四次試験時より明るいことを察する。何があったのかを無理に聞こうとは思わず、私は黙ってスプーンを手に取った。

「オレのターゲット、ヒソカだったんだ」

思わず、スプーンを落としそうになる。私の意思とは反対に、ゴンはぽつりぽつりと語りだした。
ヒソカからプレートを奪ったこと、それを別の受験生に奪われてしまったこと、毒で動けないゴンに、ヒソカがプレートを差し出してきたこと。

「だから悔しくって、情けなくって、誰かの役に立ちたかったんだ」
「……ゴンは凄いね」

はにかむゴンの顔を見ていて、素直に言葉が出た。私が呟くと、ゴンはきょとんと瞬きを繰り返している。
ゴンは凄い。怖いくらいに純粋で、素直で、真っ直ぐだ。ヒソカと一瞬対峙しただけの私でさえ、恐ろしさに体が震えたのだ。私だったら、プレートを差し出されたら「ラッキー」で終わりだけど、ゴンは合否よりも勝敗よりも強い信念を持っている。頑固なほど、それを曲げないのだ。

「ゴンはきっと、良いハンターになるだろうね」

ハンターをよく知りもしない私が言うのは差し出がましいかもしれない。でも、ゴンには合格してほしいなあと心から思うのだ。出会ってからたったの10日程だが、彼が特別なのはひしひしと感じる。
きょとんとしていたゴンが、嬉しそうな顔で笑ってくれた。

「ナマエも、一緒に合格しようね!」

他意のない声で言ってくれるから、私も自然と笑顔になった。

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