16


ポックルは突然現れたキルアにひるみ、後ずさった。抱えていた私をそっと下ろし、キルアは正面を見据える。ポックルはビクリと肩を揺らし、焦ったように弓矢を構えた。

「やめといたほうがいーよ。アンタじゃオレには勝てない」
「くっ、ふざけるな!」

自棄になったポックルが弓矢を放つ。キルアは避けるでもなく、持ち前の反射神経で、瞬時に手を出すと矢の先端部分を握り込んだ。
キルアの手の平から血が滴り落ちるのを見て、私はゴンの言葉を思い出しハッとした。

「キルア! 矢には毒が!」
「オレには毒は効かない。訓練してるから」

何でもない事のように言うと、矢を放り投げた。私は目を丸くして瞬いた。
ポックルは顔色を悪くし唇を噛んでいる。勝ち目がないことを痛感したのだろう。

「分かったろ? アンタのプレート、ちょうだい」

彼はもう抵抗しなかった。苦虫を噛み潰したような表情でプレートを投げると、すぐにこの場から去っていった。
なんだか呆然と座り込む私と、腰を屈めプレートを拾うキルアだけが残される。
キルアは私に向き直ると、ポックルのプレートを差し出した。

「ごめん」

ぼそりと口にされた謝罪は、風の音で消えそうなほど小さかったが、私の耳にはしっかり届いた。
私が視線を上げると、キルアは居心地悪そうに目を逸らしたまま。

「……なんでキルアがここに?」
「……お前のこと探してた。何日か前に見つけたけど、レオリオとクラピカと居たから……」

なるほど。責任を感じて探したものの、二人と私が一緒にいるところを見て、出てき辛かったのだろう。
どこかしょぼんとしているその姿が珍しくて、可笑しくて、笑いそうになるのをこらえた。
キルアは「それはいーから、」と不服そうな声を漏らす。

「さっさと受け取れよ。これでチャラな」

謝る側の人間とは思えない態度だ。でも、これが彼の精一杯の誠意なのだというのは、伝わってくる。
私は視線を彼の手に下ろした。プレートを握る手は、まだ少し血が滲んでいる。私の手はプレートではなく、そんな彼の手に伸びた。

「っ!」
「……痛そう」

そっと包むように手を添えると、彼の体はビクリと跳ねた。
横切るように切れた傷口に目を落とすと、胸がちくりと痛んだ。

「別に、これくらい平気だよ。どうってことない」

彼はそう言ったけど、放っておけるはずもない。私は鞄から救急セットを取り出すと、「いいって!」と言う彼に半ば無理矢理手当をした。

「はいっ! これで大丈夫」

消毒をして、絆創膏を貼る。そして手をはなすと、何故か彼は自分の手の平をまじまじと眺めていた。

「……お前、この絆創膏……」
「可愛いでしょ? 星柄」

ファンシーな星柄の絆創膏を凝視するキルア。気に入ったのかな?
要る? と残りの絆創膏を渡そうとすると、「……いらね」と言われてしまう。
キルアは気を取り直したように、「で!」と言った。

「これでお前も6点だし、チャラでいいな!」

念を押すように繰り返す。私はじっと見返すと、ふるふると頭を振った。

「んなっ! まだ要求が……」
「ナマエ」
「あ?」
「お前やアンタじゃなくて、ナマエって呼んで」

私がそう言うと、キルアは一瞬強ばった顔を見せた。動揺したように目を泳がせたあと、もう一度手の平に視線を落とすと、ぷいと顔を逸らす。

「……分かったから、いくぞ、ナマエ!」

銀髪から覗く耳が真っ赤で、私は思わず笑ってしまった。

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