1991年

目に入った瞬間に体が動かなくなった。ざわつく大広間の騒音も、高らかに歌う組分け帽子の声もくぐもって聞こえ、視線はただ一人に集中した。
まるで生き写しだ。かつての友人と同じ、もじゃもじゃの癖っ毛、丸い眼鏡、細い体つき。そわそわと不安げに周囲を伺うその目だけ、リリーのものだった。

(あ、ダメだ、泣きそう)

じわりと滲んだ涙が零れぬよう、無数の星が浮かぶ天井を見上げた。隣に座るセブルスが、少しこちらを見た気がした。

「グリフィンドール!」

ハリーを獲得したグリフィンドールの生徒たちが、思い切り歓迎の声をあげた。安心したように顔を綻ばせ駆けていくその姿を、ここにいる教師の何人が、他の誰かと重ねて見ていたことだろう。



「辛い夜だったかね」

宴を終え、自室へと向かうナマエの後姿に、優しい声がかかった。
振り向けば、静まりかえった廊下に佇むダンブルドアが、眼鏡の奥からキラキラした瞳を向けていた。

「いえ…悲しいはずなんてないんです」

視線を彷徨わせば、ダンブルドアの白い髭が、月明かりを受けてぼんやり浮かんでいる。
ナマエの言葉を待つように、ダンブルドアは黙ったままだ。

「大好きだった友人たちの、忘れ形見ですから。見るのは十年ぶりだけど、愛おしく思います」
「あの日、ハリーを引き取ろうとした君を、わしが無理に説得したんじゃったな」

ナマエは自嘲気味に笑った。

「あの時は本当にヤケになってましたからーー 一人になりたくない、なんて思って。でもそんな気持ちで育てていくなんて適切じゃないし、何より安全のためにはマグルの中で育てるべきでしたし」

ダンブルドアは深く頷いた。

「元気に大きくなってくれててーーちょっと細いけど。すごく嬉しいんです。ただ、ちょっと…生き写しすぎて」
「そうじゃな。わしも少し驚いた」
「学生時代の楽しかった頃を思い出して、ああでももう皆いないんだな、なんてーー」

背を向けて鼻をすすったナマエを、ダンブルドアは何も言わず見守ってくれた。
ナマエはくいと顔をあげると、気を取り直したように笑みを浮かべた。

「でも、大丈夫です!これでも教職員の端くれですから。司書ですけど…私情と職務は区別しますので!」
「ふむ、わしは生徒と親密にできるところは君の良いところだと思うがね」
「うーん、でもマダム・ピンスにはよく、生徒と一緒になって図書室でしゃべらない!なんて怒られます」

ほっほっほ、とダンブルドアは楽しそうな笑い声をあげた。
ダンブルドアも私も、ハリーをジェームズやリリーと切り離して考えることは出来ないだろう。
ただ、これまで親の顔も知らず寂しい思いをしていたのなら、愛情を体一杯に受け、幸せに育って欲しい。ただそれだけなのだ。

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