14
陽が落ちて夜が来ても、苛立ちと傷心はおさまらず、私はやみくもに島を歩き回っていた。これからどうしたら良いかなんてわからず焦燥感も募る。考えてみれば振り出しに戻っただけなんだけど、一度これで合格だと期待したばかりに、余計にショックは大きかった。
「レオリオ! クラピカ!」
運良く二人を見つけたのは、高い木の上にのぼって辺りを見回していたときだった。
嬉しくてすぐさま飛び降り着地した私に、大げさに驚いたのはレオリオ。どうやら二人も同盟を組んで、あと2点分を稼ごうと森を練り歩いていたらしい。
「望み薄だとは分かっているが一応聞く。お前、2点余ってたりしねーよな?」
「薄いどころの話じゃないよ。こっちは3点足りないんだから」
大げさに肩を落としてみせると、レオリオは深い溜め息をつく。
「なんだよ、一枚も取れてねーのか」
その言葉にピクリと眉が動く。無意識のうちに憤りを漏らしていたらしく、察したクラピカが「……何かあったのか?」と神妙な面持ちで尋ねた。
「……まあね……」
そこからは私の止まらない愚痴。ヒートアップして声が大きくなるたびにクラピカに「静かに」と注意されつつ、同盟を言い出されたところからジャポン行きを否定されたところまで、キルアとの一件を全て捲し立てた。
はじめは真剣に聞いてくれていた二人だったのに、ハンゾーが出てきてからのキルアの言動を話すと、お互いに顔を見合わせて微妙な顔をしている。終いには、「意外と可愛いとこあんじゃねーか」と言い出す始末。
その反応を怪訝に思い首を傾げると、同情したような、子どもを見るような、生暖かい視線を送られた。
「それはまあ、何と言うか……お前の気持ちも分かるけど、そんなに腹を立てるのもキルアに酷だな」
「なんで!? こんな理不尽なことされたのに! 意味わかんない!」
「我々の口から説明するのは、荷が重いのだよ」
「ええ!?」
ますます理解ができず、ただキルアを庇うような発言をされたことがショックで、拗ねたように口を尖らせ黙り込む。
下を向いていると、「オレにもこんな初々しい時代が……」「親父くさいぞ、レオリオ」だのと言っているのが聞こえる。
二人が溜め息を付きながら見下ろしていることが分かり、自分が幼く情けなく感じますます悲しくなってきた、そんな時だった。ゾワッと嫌な予感が背中を駆け上り、反射的に片足を引いて暗闇に目をこらす。深い木々の間から顔を出したのは、一番関わりたくなかった男。
「や◆」
(ヒソカ……!)
最悪だ。受験生同士の狩り合いが認められた試験中、よりによってこの男と顔を合わせてしまうとは。
戦って勝てる相手ではない。逃げる? 逃げたところで、追いつかれるに決まっている。殺されるくらいなら、プレートを差し出す?
ぐるぐると思案している間に、勇敢にもクラピカが交渉に出ていた。
「我々のプレートと、私のターゲットである16番のプレートは渡せない。だが、我々にとって1点分にしかならないプレートだけでいいなら譲ろう」
額から頬を滑った汗が、顎先から滴り落ちた。ヒソカとの対峙を、本能が「やばい」と悟っている。
ヒソカは口元に浮かべた笑みを絶やさず、クラピカ、レオリオ、そして私へと視線を動かした。
「キミ……」
視線を私に留めたまま、ヒソカが一歩踏み出す。緊張感が辺り一帯を支配し、心臓の煩さといったら、鼓膜のすぐ傍で鳴っているのかと思うほどだ。
握った拳が恐怖に震える。
「それ、どこで覚えた?」
「それ……?」
ヒソカの問いが要領を得ず、オウム返しする。喉から出た声は渇ききっていた。
「そのテンのことだよ◆」
「テン??」
彼の望む答えどころか、質問の理解すらできずに気持ちが焦る。
ただ頭の上にハテナマークを飛ばすしかできず、困惑した。
ヒソカは拍子抜けしたような顔で、「うーん……」と呟いた。
「とぼけてる……ってワケじゃなさそうだね。キミ、どこから来たんだい?」
「……私、記憶喪失なの。だからわからない」
興味を持たれてしまっている。それが吉と出るか、否か。
今できる唯一のことは、正直に答えることだけだ。
ヒソカは私の返答に目を瞬かせたあと、口角を上げた。「なるほど、なるほど」と呟いたあと、やっと視線を私から逸らす。
「いいだろう◆交渉成立◆」
意外にもクラピカの提案を受け入れ、彼は一枚のプレートだけで手を打った。私たちは、ヒソカの気が変わらないうちにと、すぐにその場をあとにした。
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