13


「……見られてるな」
「ええー、またぁ?」

三兄弟からプレートを奪ったあと、再び森の中を歩き回っていた時、キルアが小声で呟いた。
初めての戦闘を終えて、しかも勝利をおさめて喜んでいたのに。実戦が大事だと言っても、もう少し余韻に浸らせてほしい。
文句を垂れる私の顔を、キルアは片眉を上げて見た。

「お前さぁ、二次試験の時オレの視線はわかった癖に、なんでちっとも気付かないんだよ」
「えー、だってあの時は豚を倒すために神経張り巡らせてたし……」
「それを常にやるんだっつの」
「ええー、いきなり難度高すぎない?」

戦闘慣れしていない私に、無理に決まってる。そんなの30分も持たない。
軽く言ってのけたキルアは、宙に向かって「おーい、誰か知らないけど出てこいよー」と声を掛けた。

「ちょっと、そんなことしてヒソカだったらどうすんの?」
「ヒソカは見張るなんて回りくどいことしねーだろ」

そうなの? そういうもん?

ザワザワと木々が揺れる。一層強い風が吹いた時、葉が擦れる音に紛れて、誰かが飛び降りて私たちの前に着地した。
咄嗟に体を構えたが、立ち上がったその人を見て、私は一人気が抜ける。

「なんだ、ハンゾーじゃん」

降り立ったのは坊主頭の忍者だった。私の言葉に「よぉ」と軽く手を上げる。
すっかり戦闘態勢を解いた私とは反対に、キルアは警戒と嫌悪を剥き出しにしていた。キルアってハンゾーのこと嫌いだよなー。

「何しに来たんだよ。オレたちアンタのターゲットじゃないだろ」
「まあまあ、そう邪険にすんなって」

敵意を隠そうともしないキルアを軽く去なし、ハンゾーは両手を上げた。どうやら私たちと戦うつもりはないらしい。
「交渉に来たんだ」というと、懐から2枚のプレートを取り出す。

「実はオレのターゲットは197番でね。ひとまず様子を見ようと見張ってたらお前と戦って、プレートを渡してるじゃねーか。そこでだ、お前が持ってる197番のプレートと、オレが他の受験生から奪った2枚のプレート、交換しないか?」
「えっ! いいの!?」

私は飛びつかんばかりに喜んだ。ぱぁっと笑顔が広がる。

「オレは197番のプレートを手に入れて、6点。お前は198番と、この2枚のプレートを合わせて6点。どうだ、悪くない話だろ?」
「悪くないどころか、最高!」

これ以上戦わなくて済む!
早速リュックに手を突っ込み、手探りでプレートを掴むと意気揚々と取り出した。
「はいっ!」と言ってハンゾーの前に差し出す。しかし、そこには何も持っていない私の手。

「あら……?」

ぽかんとして視線を右へずらすと、さっきから黙っていたキルアが2枚のプレートを持っていた。いつの間に掻っ攫われたのやら。

「ちょ、キルア?」
「おいおい、何だってんだよ」

私とハンゾーが怪訝な表情を向けるも、キルアはどこか不貞腐れた顔で立っているだけ。
ハンゾーが「おい、邪魔すんなよ」と咎めると、彼の目がキッと吊り上がった。

「邪魔してんのはそっちだろ!? コイツは今から実戦積んでプレート集めるんだから、余計なことすんな!」
「ちょっと、勝手に決めないでよ! こんなに早く集まるならそれに越したことないじゃん!」
「あるんだよバーカ! オレと同盟組んだんだからこんなハゲの言うこと聞くな!」
「ハ、ハゲッ……」
「はあ!? 横暴にも程があるでしょ! いいからプレート返してよ!」

何故かムキになるキルアに向かい、一歩踏み出した、その時。
なんと彼は、持っていたプレート2枚をそれぞれ別方向へ全力投球した。

「「あーーーーーーっ!!!」」

私とハンゾーの叫びが重なる。ハンゾーは瞬く間にプレートを追いかけ飛び去っていった。
あとに残されたのは、フンと顔を逸らすキルアと、怒りに震える私。
いくらなんでも、これは酷いでしょ!?

「なにすんのよっ! せっかくのチャンスだったのに!」

キルアの面前に迫って糾弾するも、彼も負けじと声を張り上げる。

「お前な、あのハゲに媚売りすぎ!」
「媚!?」

訳の分からないことを攻められ、眉が吊り上がる。

「試験を受けに来たくせに、つるみやがって!」
「それ同盟言い出したキルアが言う!?」
「連絡先も交換してたじゃねーか、お前はここに男漁りに来たのかよ!」

いくらなんでもあんまりだ。怒りと羞恥で顔に熱が集まり、体はわなわなと震えた。

「だってハンゾーはジャポン出身だし! 情報もらったりジャポンに行く時に連絡とるでしょ!?」
っていうか、なんでこんなことをキルアに言い訳しなくちゃいけないんだ!
「ジャポンなんか行く必要ねー!」
キルアは大声で威圧するように言い放った。
「なんでキルアが決めんのよ! 私の問題なのに!」
「いいから必要ねーって言ってんだ!」
「はぁ!?」

私の記憶を紐解く鍵が、そこにあるかもしれないのに。まるで自分の悩みを全否定されているようで、心臓が痛む。
感情が昂って、瞳が熱くなる。少しだけ視界が潤み、気付いたキルアが戸惑ったのが分かった。
私は傷ついた感情を、そのままぶつける。

「キルアに私の、何がわかんのよ!?」

こらえきれずに涙がひとつだけ落ちた。キルアが思いのほかショックを受けた顔をしていたが、傷ついたのは私のほうだ。勝手なことをして、傷つくだなんて余計に勝手だと、怒りがおさまることはなく、立ち尽くすキルアを置いて私はその場を去った。

/ top /
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -