12


四次試験、二日目。私とキルアは受験生を探して練り歩くものの、誰にも出会うことがなかった。
私のターゲットもキルアのターゲットも、誰の番号なのか分からない、この状況。その上こうも誰にも出会わないと、本当に合格できるのだろうかと気ばかりが焦る。
どうすべきかと考えあぐねていると、キルアが歩を止めて「ふうー」と息をついた。そして空に向かって声を掛ける。

「バレバレだぜ、出てこいよ。来ないならこっちから行こっと」

昨日から感じていた視線に向かって言っているのだろう。あくまで明るく問いかけると、スタスタと気配のほうへ歩いていく。
わ、私はコワイからここに居ても良いだろうか。

「……へへ、まさかオレたちのターゲットがガキと女だなんてな」
「しかも一緒に行動してくれるたぁ、手間が省けて助かる」

茂みから現れたのは、イモリだかヤモリだかの3兄弟のうちの2人。どうやら2人のターゲットがちょうど、私とキルアだったらしい。
私たちを見た目で判断して、完全に舐めていらっしゃる。「悪いこた言わねぇ、痛い目見る前にプレートを寄越しな」なんて言うから、私もカチンときた。

「へー、198番か。1番違いだなー」

ふと、何事もないかのようにキルアが呟く。きょとんとする兄弟と私。その手には、本当にいつ盗ったのやら、一枚のプレートが握られている。
一人が慌てたように自身のポケットを探るが、当然空っぽ。兄弟に、驚愕と警戒心が高まったのが見て取れた。

「もしかしてあんた、199番?」

朗らかに問い掛けながら踏み込むキルア。反対に、兄弟は一歩後ずさる。
その時、嫌な気配を感じて咄嗟に飛び退いた。さっきまで立っていた場所には、駆けつけたのだろう、三兄弟残りの一人が拳を振り下ろしていた。心臓がドクドクと鳴る。二人が「兄ちゃん!」と呼んでいるのだから、一番上の兄らしい。

「ちょうどいいじゃん。実戦の練習、してみろよ」

キルアはなんとも軽く言ってのける。その手には早くも199番のプレートが握られていた。
既に下2人は戦意喪失。大人しく膝を付いている。
私と向き合っている兄は「ちっ」と舌打ちした。

「練習たぁ、ナメてくれるじゃねーか」

キルアさん、ヤバいです。完全にキレてます。
キルアは切り株に腰をおろし、鼻歌を歌いながらこちらを眺めている。私は背中に汗が流れ落ちるのを感じ、ごくりと唾を飲み込んだ。
圧倒的な経験不足。克服しなければ、合格できっこない。私は意を決し、拳を握りしめ地を蹴った。

「てやっ!」
「!(早い!)」

勢い良く相手の前まで迫り、一気に間合いを詰める。繰り出した拳は寸前で避けられてしまう。空振りしたまま体が倒れそうになるが、左足で踏ん張り、今度は右足で蹴りを入れた。これは相手の脇腹へ入る。「ぐっ」と息を飲む声が聞こえ、当たった喜びで少し緊張感が緩んだ。その隙を突き、今度は相手の蹴りが私の背に入る。

「っ!!」

一瞬、息が詰まった。しかし思ったよりも痛くはない。なんだか、見えない何かに守られているような、分厚いクッション越しに蹴られたような衝撃だった。体も倒れ込むことなく、踏みとどまることができる。
相手は全力で蹴ったのだろう。「なにっ!?」と動揺が伝わった。
動転したその隙を見逃さず、思いっきり勢いをつけて、鳩尾を下から蹴り上げた。


「はい、そこまでー。もういいだろ? ナンバープレート、こいつに渡してよ」

鳩尾を押さえて蹲る男は、抵抗せずにプレートを投げて寄越した。私はそれをキャッチする。
番号は197番。私のターゲットではないが、自分の力で奪ったのだという実感がひしひしと湧いた。ちょっと感動。

「どうだった? やってみて」

キルアは198番のプレートも私に投げて寄越す。これで得点としてはいきなりリーチだ。
2枚のプレートを鞄の底にしまいこみながら、実戦の感想を述べた。

「怖かったけど、なんていうか……体が勝手に動いた」
「フォームも動きも滅茶苦茶だし、隙だらけだったけどな」

キルアはそう簡単には褒めてくれない。そりゃあキルアの領域には遠く及ばないが、初めての勝利なんだからもっと喜ばせてほしい。
私が少し拗ねて口を尖らせていると、気にもしていない様子で伸びをしていた。

「ま、もしかしたら、ナマエの体は戦い方を覚えてんのかもな」
「あ」
「ん?」

尖らせていた口を開き、立ち止まる。
キルアはきょとんとして振り返った。

「名前」
「名前?」
「初めて、ナマエって言った」

私が笑うと、キルアは大きな目を更に見開いたのち、勢いよく顔をそらした。
これまでずっと、お前だのアンタだの呼ばれていたのだ。単純にも私は、彼の一言ですっかり機嫌が直ってしまった。

「ねー、ナマエって! 言ったよね!」
「うるせーバカ黙れ」
「口悪い!」

憎まれ口を叩くキルアの首筋は、真っ赤に染まっていた。

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