11


キルアと私は、何やら同盟というものを組むことになった。
そりゃあ私にしてみれば願ったり叶ったり。一次試験以外、毎回誰かにおんぶに抱っこで情けないが、一人じゃあ絶対に無理だし、下手すりゃ死ぬ。見栄やプライドより命のほうが大事だ。
でも、キルアが私と組むメリットは? 何のために、お荷物(自分で言ってて悲しい)でしかない私と同盟を?
そう尋ねても、「うるせーお前にとってこれ以上ない好条件なんだから黙って受け入れろその質問今後禁止な次言ったらどつく」と捲し立てられ背を向けられた。まさに理不尽。
どつかれるのは嫌なので、もう黙っておくことにした。

スケボーを抱えながら歩く背中を眺める。張り巡らされた木の根を彼が飛び越えるたび、銀髪がふわふわと揺れて、タートルネックの襟から白い首筋がちらついた。半ズボンからすらりと伸びた細い足の、ところどころが汚れているのが目に入る。そこで、自分の体も汚いことを思い出した。そうだ、私、水浴びしたいんだった。

「ねぇキルアー」
「……なんだよ」
「一緒に水浴びしない?」

明るい口調で提案すると、キルアはがばっと勢い良く振り向いた。その顔に赤みが差しているのを見て、私の目が丸くなる。

「え」
「んなっ……お前、何言って!」
「いやいやいや大丈夫。交代でね? キルアが入ってる間は、背中向けて見張りしとくし! 絶対見ないよ!?」

どうやら混浴のお誘いだと勘違いされたらしい。やましいことは何もないのに、私はエロ親父のごとく否定の言葉を並べた。我ながら思う、喋れば喋るほど怪しい。
キルアはハッとしたあと、口元を手の平で覆って顔を背けた。暫く気まずい空気が流れたあと、居心地悪そうな視線が私を見る。

「……お前な、ずっと見られてんの、気付いてねーの?」
「えっ!?」

少し潜められたその言葉に目を剥く。急いで周囲に注意を払うと、なんと4つもの視線を感じた。キルアが居なかったらこんな状態で入浴ショーをお披露目するところだったと、ぶるっと震えた。

「多分、2つはハンター協会の人間だな。オレとお前をそれぞれ観察してるんだと思うぜ」
「……そこまで分かるんだ」
「まーな。あとの2つは、オレたちがターゲットのヤツか、子どもだから狙ってんのか」
なんて事ないみたいに言うと、頭の後ろで腕を組む。
「ま、こっちはもう少し泳がせとくか」





水浴びは諦めて、池で濡らしたタオルで体を拭いた。キルアと並びながらゴシゴシと体を擦る。暫くお互い無言だったが、沈黙が心地よいほど仲も良くない。なにか話題、どつかれないやつ、と思考を巡らせていると、ふと聞きたかったことがあったと思い出した。

「ねえ」
「なあ」

あ、ベタなやつ。
重なった声にお互いたじろぐ。「何?」「お前こそ」なんて続く言葉もベタだ。
キルアが私の言葉を待っているので、意を決して問いかけた。

「……キルアん家って、本当に暗殺稼業なの?」

私が言葉を紡いだ途端、キルアの瞳が暗く揺れた。あ、失敗。沈黙を埋めるための話題としては最悪。
でももう言ってしまったのだから仕方がない。撤回するわけにもいかず、気まずい思いを押し込め返答を待った。

「……そうだよ」
キルアの声は重い。
「……キルアも?」
「元、な。もうやめた」

キルアの瞳はふいと伏せられた。喜ばしくない話題に、一生懸命答えてくれているのが分かった。
もうやめた。家を出た。彼は変わったんだーー変わろうとしてるんだ、きっと。
組まれている彼の手がわずかに震えていることに気が付いて、そう思った。

「……オレが、怖いか?」

真剣な声。キルアはもう、目を逸らさなかった。
私も真っ直ぐに視線を受け止めながら、首を振った。

「ううん。だってもう、違うんだもんね」

私の言葉に安心したように下げられる視線。その顔を見れば、普通の11歳の男の子だ。
出会ってからずっと、彼は憎まれ口は叩くけれど、とても優しい。何度も助けられた。日は短くても私の知るキルアの姿と、“暗殺一家”“闇の世界の人間”と言われる彼の姿と。そのギャップがまだ、私には埋められない。

この話題はこれで終わり。気分を変えようと、「で、キルアは何?」と問い掛ける。彼は「ああ」と相づちを打ち、視線を持ち上げる。

「正直、お前が三次試験受かると思ってなかったんだよな。オレたちとはぐれたし。で、どんな道だったのかなーと思って」
なるほど。何気に失礼なことを言われているが、否定はしない。
「私ね、ハンゾーと同じ道だったの」
ハンゾーの名前を出すと、キルアの肩がぴくりと動いた。心なしか、漂う雰囲気が少し変わる。
「二人三脚の道で、足枷で足を繋がなくちゃいけなくて……」
「……」
「ハンゾーってば歩くスピード全然合わせてくれなくてさ、途中遅すぎる!とか言われて抱えられたよ」
「ふーーーーん」

キルアは低い声で相づちを打つと、勢い良く立ち上がった。座ったままの私をじとりと見下ろすと、フンと鼻を鳴らした。

「ずいぶんたのしそーだったみてーじゃん」
「……いや、楽しくはなかったよ?」
「そーか? アイツに助けてもらったんなら、オレが気にする必要なかったなー。あー心配して損した!」

投げやりに言われた言葉に、私は目を瞬いた。

「……心配、してくれてたんだ?」
御礼を言おうと開きかけた口は、真っ赤なキルアの顔を見て固まってしまった。
「してねーよバーカ!!!」と大声で吐き捨てると、彼はずんずんと歩いていってしまった。

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