10


「ナマエ、オレの仲間にならないか?」

この人は誰だろう。逆光で顔がよく見えない。優しく問いかけられた勧誘に、私は小さく頭を振った。

「嫌だ。私、やらなきゃいけないことがあるの」

(あれ?)

自分の口を衝いて出た言葉。それが耳に届き、違和感を覚えた。
私の声、こんなんだったっけ?





「ナマエ! ナマエ、おい、目ぇ覚ませ!!」

パチリ。瞼が開き、コンクリートの天井が目に飛び込んだ。急激に引き上げられた意識は、しばらくの間ぼんやりとしていたが、覗き込んできた薄青い瞳を見て思考が晴れた。

「……キルア?」
「ナマエ、大丈夫?」

反応した私にホッと息を吐くキルア。ゴンが心配そうに声を掛けてくれ、視線を動かすと、クラピカやレオリオの姿も目に入った。ついでに、えーと、トンパさんも。
なんだか皆酷くボロボロだ。まあ、私もか――と思ったところで、ハッとして起き上がった。

「あっ! 試験は!?」
「え? もう此処、ゴールだよ?」

ゴンがキョトンとした表情で答えてくれて、私は瞬きを返した。
そこでやっと周囲を見渡すと、円形の部屋の中、松明に照らされる受験生たち。ぐるりと視界を巡らせると壁に寄りかかるハンゾーも見つけた。彼は「よっ」と言って立てた二本指を額に当て、軽く挨拶をした。

……そうか、ハンゾーがあの囚人を倒してくれたんだ。私はすっかりオマケの合格だな。
ジンジンと痛む額をさすろうと手をやると、伝わったのは湿布の感触。どうやら手当までしてくれたようだ。

「ナマエもオレたちと同じ道なら良かったのにねー」
「全くだぜ。そしたら、あんな腹の立つ野郎と協力せず済んだんだ」

どうやらトンパさんは、ただのジュースをくれるおじさんじゃなかったらしい。
愚痴をこぼすレオリオを眺めていると、キルアがじっと視線を送ってくることに気が付いた。
きょとんとして見返すと、それはすぐに逸らされてしまった。
何はともあれ、三次試験、無事突破。





やっとタワーから抜けて一息ついたというのに、四次試験の開始はすぐ、2時間後だ。とはいえ私は随分長く寝ていたらしく、心身の疲れはすっかりとれている。
3日ぶりに当たる陽の光に目を細め、手摺に腕を預けながら、船体に当たってははじかれる波を眺めていた。

周囲に誰もいないことを確認してから、先ほど引いたばかりのカードをポケットから取り出す。そこには「53」と書かれていた。

「…………誰だっけなぁ〜〜〜」

全員分の番号なんて、覚えているわけがない。
分かるのは、ゴンやキルア、クラピカ、レオリオ、そしてハンゾーの番号ではないってこと。あ、あとヒソカ。
残りの受験生は18人。……うーん、多すぎる。
狩るべき相手の検討もつかず、おまけに私は実戦の勝率、未だゼロ。試験期間は一週間。四次試験の難度はなかなか高そうだ。



「それでは次の方、スタート!」

トリックタワーの脱出順に船を降りていく。私はハンゾーのおかげで、なかなか早い順番で脱出していたらしい。お姉さんに促されるまま下船し、森の中に身を潜めたものの、作戦なんてありゃしない。
しばらく隠れながら考え込んだが、視界に映った薄汚れた腕を認め、私は「よし」と呟いた。

「まずは水浴びだ」
「なんでだよ」

すぐ真後ろから聞こえた声に、悲鳴が気管を駆け上がる。喉まで出かかったそれは飛び出す前に、キルアの手によって塞がれた。
キルアは見開かれた目を真っ直ぐ見据えると、人差し指を口元に立てた。私が頷くのを見ると、ゆっくりと手を離す。

「お前、ほんっと隙だらけ。オレのターゲットがお前じゃなくて良かったな」
「あ、違うの?」

諦めてプレートを差し出そうとした手を止めた。疑われたことが癪なのか、キルアは眉根を寄せる。
呆れた視線にも随分慣れたものだと、頭の端で思った。彼は気を取り直したように指を立てた。

「お前、この試験どーやってクリアするつもり?」
「……それが、クリアできる気が全くしなくって」

情けないとは思うが正直に口にした。キルアは「だろーな」なんて言ってくれるので更に肩を落とした。

「お前一人じゃぜってー無理。隠れるセンスもねーし相手から取れる可能性もほぼない」
「ずけずけ言うね……」
「だから、」

一度言葉を切ると、どこか強ばった表情で私を見る。

「オレと組むぞ」

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