「同郷(未確定)のよしみ」でハンゾーが教えてくれた隠し扉を通り、トリックタワーの内部へと入っていく。隣り合った扉をくぐった私とハンゾーは、同じ小部屋に降りたった。部屋の中央にポツンと置かれたテーブルには、一つの足枷と二つのタイマー。そして張り紙に説明が書かれていた。

二人三脚の道
君達二人は ここからゴールまでの道を
二人三脚で乗り越えなければいけない


「はーん、二人三脚たぁ、お前オレとでラッキーだったな! このハンゾーに任せておけばトリックタワー攻略も余裕よ!」

ハンゾーは試験中とは思えぬ明るさで笑い、私の背中をバシバシと叩く。痛い。
でも確かに彼の言う通り、戦闘能力皆無の私には最適の道とパートナーかもしれない。

「どうぞよろしくお願いします」
「任せとけ! ははは!」

私の右足とハンゾーの左足を繋ぎ、開いた扉へと進んだ。





ハンゾーのおかげでトリックタワーは楽々攻略。ーーというわけにもいかなかった。
まず私たち二人の歩行速度とコンパスの違いが著しく、歩き始めてすぐに「歩くの早すぎ!」「お前が遅い!」と喧嘩。
分かれ道になると「そっちはなんか嫌!」「オレの勘がこっちだって言ってる!」と意見が合わず喧嘩。
障害物を飛び越える時にも一向に揃わないペースのおかげで、私が足を打つか、ハンゾーが頭を打つかになり、喧嘩。
24時間が過ぎる頃には、お互いに疲れが見えていた。随分歩いたが、上ったり降りたりを繰り返し、現在地がどこらへんなのかも分からない。襲いくる眠気と空腹にしびれを切らし、「ねえ」と呼びかける。

「ちょっとここら辺で休まない?」
「……ケッ、さてはお前温室育ちだな」

憎まれ口を叩きながらも、ハンゾーだって目の下に隈を作っている。忍たる者寝ずの修行なんて慣れているだろうが、お互いへの不満と苛立ちが疲れを助長させているように思える。
先を急ごうと強行することもなく、ハンゾーはどっかりと腰をおろした。
私も座り込み、鞄の中を漁る。非常食と水くらいは入れていたはず。

「ハンゾーも食べる?」
「いや、オレは人からもらったもんは喉を通らねーんだ。絶食にも慣れてるしな」
「あ、そう」

じゃあ遠慮なく。取り出した乾パンをムシャムシャと頬張る。忍の習性って面倒なところもあるんだなあ。
ハンゾーは黙って目を瞑っていたかと思うと、思い立ったように私の顔をじっと見た。

「? なに?」
「……さっき、巨大な岩に追われた時、お前が余りにもおせーんで抱えただろ」
「うん(一言余計だな)」
「そん時思ったんだけどよ」

ハンゾーはピッと指で私を差して、こともなげに続けた。

「お前の体、ぶよぶよしてる」

ゴッ。反射的に出たグーパンは、難なく手の平で防がれた。思いっきり顔面に入れてやりたかったのに。

「違う違う、そうじゃなくて」
「失礼すぎるのも忍の習性かな?」
「体型とかじゃなくてよ、なんか、皮膚の上に一枚あるっていうか。お前の能力とかじゃねーの?」

能力? 問われても心当たりは全くない。私が首を傾げると、何も知らないことを悟ったらしい。ハンゾーは顎に手を添え、「うーん」と唸った。

「お前は正直めちゃくちゃ足手纏いだが」
「ハンゾー嫌い」
「俊敏性とか自体は悪くねぇ。もしかしたら、お前は元々戦いの中に身を置いてたのかもな」

ハンゾーの言葉に、拗ねて逸らしていた視線を上げた。全く思い出せない一年前までの自分。正直ピンとは来ないが、身体能力を考えると、その可能性はある。
もしかして私は、ジャポンで戦闘していたのだろうか?

「……まさか私も忍、とか?」
「お前が忍だったら、下の下の下の下忍だな」
「ほんとハンゾー嫌い」

三次試験の制限時間、残り46時間。



岩、水、火、電気など、考えられるありとあらゆる障害物を越え、階段を昇り坂を駆け下り、一際大きな扉を開けた。扉の向こうに待っていたのは、フードを深く被った何者かだった。
これまで様々な障害物に出会ったが、人が立ちはだかったのは初めてだ。二人の体に緊張が走ったのがわかる。

「フフ……ようこそ。オレは囚人だ。今からお前たちと戦う」

両腕を拘束していた手錠が重い音を立てて落ちる。フードを脱ぐと、陰鬱とした笑みを浮かべた体格の良い男が現れた。
男の背後には、入ってきた時と同じような大きな扉。親指でそれをさすと、にたりと笑った。

「二対一で良い。オレを倒して、あの扉を出ればゴール」
「……二対一って、足枷はそのまんまかよ」
「だってここは二人三脚の道だからね」

男は両指をポキポキと鳴らすと、真正面から私たちを見据えた。鋭い眼光で舌なめずりをするヤツから漂うのは、異常者の香り。
正直、一対一なら勝てる気はしない。ハンゾーが居てくれて助かったが、私と繋がれていては戦いにくいだろう。額を汗が伝う。ハンゾーがボソっと、「オレに任せろよ」と囁いたので、小さく頷いた。

「準備はいいかい? それじゃあ……はじめっ!!」

男は叫ぶと同時に、殺気を放つ。全身の毛穴が粟立ち、反射的に地を蹴った時、ハンゾーが反対側に駆け出した。
ハンゾーと私の力の差は瞭然。私の蹴りが叶うわけもなく、引っ張られた右足は宙へ上がり、左足はズルリと床を滑った。

ガンッ!!!

石畳の床に見事な勢いで額を打ち、「あ、やべっ」という声を遠くに聞きながら、私は意識を手放した。
ハンゾー、大嫌い。

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