1991年

「セブルス!セブルス!」

ぱたぱたと廊下を駆け抜けて、黒いローブを引っつかんだ。
聞こえない振りをしようとしていた彼は、嫌そうな表情を隠そうともせず、ナマエを見下ろす。

「…なにかな、ミョウジ先生」
「あら素っ気ない。今は生徒も居ないんだし、ナマエでいいってば」
「…普段からファーストネームで呼んでいた覚えはないが?」
「昔はナマエって呼んでくれたじゃない」

肩を竦めてそう言うと、「いつの話をしているのだ」と更に眉間の皺が深くなった。
用件は何だ、と尋ねられ、やっと廊下を全速力で走った理由を思い出した。

「ハリーが今年入学だって、知ってた!?」
「…知らなかったのかね」

頬を紅潮させ興奮した様子で言うナマエに、スネイプは冷たく呟いた。
魔法界で最も有名な人物の一人であるハリー・ポッター…彼が今年ホグワーツに入学であることなど、周知の事実だった。
ナマエは落ち着かない様子でまくしたてる。

「考えてみたら当たり前なのよね!計算してみたら今年十一歳だし、調べてみたらみんな知ってるしーーーなんで気付かなかったのかしら!今日ここに、ハリーがくるのよ!リリーの息子が!」

早口で言うナマエをさめた目で見ていたスネイプだが、リリー、という名前にピクリと反応を示した。
わずかに揺れた瞳を、ナマエは見逃さなかった。

「なんだか…なんだか、あの頃に帰ったような気分だわ」

悲しいのか嬉しいのか分からない。だが今はなき親友の姿をもう一度見れるような気がした。
眉根を下げて微笑むナマエの顔は、いまにも泣き出しそうだった。

「…そろそろ離していただけるかな」
「えっ、あ、ごめん」

スネイプの言葉に、掴んでいたローブを離した。
すぐに立ち去るわけでもなく、二人とも暫く、何か言いたげに立ち止まっていた。

「…いかにも、あの頃に戻ったようだな」
「…え、」
「その落ち着きのなさ、何度叱られてもなおらなかった廊下を走る癖、情報の疎さ、学生時代のままですな、ミョウジ先生」
「……セブルス……」

嫌味ったらしく口端をあげると、スネイプはローブを翻し去って行った。
しばらく恨みを込めてその後ろ姿を眺めていたが、ふと目に入った壁掛け時計の針を見て、慌てて踵をかえした。
もうすぐ上級生が城につく時間だ。





1971年

ナマエはぱたぱたとコンパートメントの中を走っていた。その目はきょろきょろと不安そうに周囲を見回している。リリーとセブルスを置いてトイレに立ったのは良いものの、元のコンパートメントにたどり着けなくなってしまったのだ。
覗き込んだコンパートメントには、既に制服に着替えたらしい生徒の姿が見える。ナマエは未だ私服だった。早く着替えねば間に合わないかもしれないーーー

「いくよ、そーれっ」
「!?きゃああああ!」

次の車両へと移ろうとしたナマエの目の前に、大きな口をあけたヘビがとんできた。
叫び声をあげたまま尻餅をついたナマエに、物陰からひょっこり男の子が顔を出した。

「ああ!ごっめーん!人が来ると思わなかったんだ!」

男の子は、申し訳なさそうに眉を下げると、もじゃもじゃの頭をかいた。
未だ目を白黒させるナマエに、床に落ちたヘビを手に取り見せる。

「ほら、おもちゃ。呪文で動かしてやろうと思って」
「…お前、そんなことより、先に起こしてやったら?」
「ん?ああそうか」

もう一人、男の子が顔を出した。背が高くてハンサムな男の子。
もじゃもじゃ頭の男の子は、ヘビをローブのポケットにしまうと、手を差し出した。ナマエはその手を借りて立ち上がる。

「あ、ありがとう…」
「どういたしまして!」
「ちげーだろ、お前のせいだろ」
「ああそうだった」

カラカラと笑う男の子と、ため息をつく男の子。
正反対のリアクションを見せる二人に、どうしたらいいか分からず、視線を彷徨わせた。

「僕ジェームズ・ポッター!」

もじゃもじゃ頭の少年が、突然自己紹介をし、握手を求めてきた。
きょとんとしながらも、ナマエも名前を告げ、再び手をとる。

「ほらほら、君も言えよ」
「…シリウス・ブラック」
「…よろしく」

ぶっきらぼうに告げるシリウスとも握手をし、「愛想がないな君は!」「うるせー黙れ」「いたっ!叩くなよ!」というやり取りを見届けた。

「ところでナマエ、着替えなくてもいいのかい?」
「あっ、そうだった!」

ジェームズの言葉にぱちんと手を叩き、二人に別れを告げると再びコンパートメントを走り抜けた。
後ろからジェームズの、「走るとまた転ぶよー!」という声が聞こえた。

/ top /
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -