合格者ゼロ。その動揺が受験生に広がり、重い空気が漂う。誰もが納得いかず、不満が顔に表れていた。
一触即発、そんな中現れたのは、なんとハンター協会会長。突然のVIPの登場に驚いたのも束の間、現在再試験として選ばれたゆで卵の為、マフタツ山に立っていた。

「こ、ここここから飛び降りるの!?」
「ビビりすぎ。大丈夫だって」

私は口もうまく回らないというのに、キルアは軽く告げると、まるで階段を一段飛び降りるみたいに軽快に地面を蹴った。
ゴン、クラピカ、レオリオも何の迷いもなく飛び込んでいく。何これ人種が違う。
何十人もの受験生が底の見えない谷間に姿を消す。出遅れた私は二の足を踏んだ。

「残りは? ギブアップ?」
「やめるのも勇気じゃ。テストは今年だけじゃないからの」

優しさともとれるその言葉に逆に奮起され、ええいままよ!と私の足は地面を離れた。


「いいいいやああああああああ!!!!!」

飛び降りて1秒後に後悔! これは死ぬ! 無理! 十数年(推定)の短い人生さようなら!
飛べるわけもないのに両腕をばたつかせながら落ちる、不格好な私の悲鳴が谷山に木霊する。
完全に死を悟り諦めた私の腕を、誰かががっしり掴んだ。下から上へと流れていた視界が、一定の速度で左右に揺れた。

「うっるせー」
「……生きて、る……一年分の出来事が頭を駆け巡ったよ……」
「走馬灯にしちゃみじけーな」

腕を掴みながら呆れた声を掛けるのは、またしてもキルアだった。糸に足を掛けるレオリオも、苦笑いを浮かべている。
ゴンにまで「一次試験の時はナマエって凄いんだと思ってたよ!」なんて言われてしまい、地味にこれが一番傷ついた。
何はともあれ、二次試験突破である。





二次試験合格者43名を乗せて、飛行船は空を飛ぶ。明日の8時までは自由時間。とにもかくにも汗を流すべくシャワーを浴びると、私は飛行船内を探索した。疲れ果てた受験生たちが座り込んでいる中を、目的の銀髪を探して歩く。
暫く探したあと、角を曲がる直前、「オレん家暗殺稼業なんだよね」と声が聞こえた。思わず足を止める。

「継ぐの嫌だから家おん出てやったんだ」

明るい声。内容さえ聞こえなければ、二人の少年が和気あいあいと話している和やかな光景だ。
―――アンサツ? キルアが?
動揺して出て行くことができず、影から二人を盗み見る。そんな私の肩を、ポンと誰かが叩いた。

「! (ネテロ会長、?)」

振り向いた先にいたのはハンター協会会長たるお方。驚き息を飲む私に、人差し指を口元に立てて笑った。
そして私がしていたようにゴンとキルアを覗き見る。数刻置いて、二人に向かって恐らく"殺気”を放つ。自分に向けられているわけではなくても肩が跳ねたのち、目の前にいたネテロが消えていることに気が付いた。

(あ、れ?)
「えっ? ナマエ?」

ゴンの声にハッとして前を見やる。ネテロの放った殺気に立ち上がった二人が、私を見ていた。

「……今の、お前?」
「えっ? いやいや!」

そんなわけないと大げさなほど頭を振る。私が忍び寄るネテロに気が付くと同時に、「どうかしたかの?」とわざとらしく声を掛けていた。



ネテロから球を奪えば、ハンター試験合格。そんなイレギュラーなゲームが行なわれ、成り行き上私もそれを見守っていた。先攻であるキルアの動きはやはり常人離れしており、先ほどの話を裏付けていて、複雑な思いが巡る。
そんなキルアをもネテロは余裕で去なし、ハンター協会会長の威厳を感じさせた。


「聞いてたんだろ? さっきの」

ゴンと交代したキルアが、少し離れた場所に座りながらそう言った。思わずキルアを見ると、彼は前を向いたまま。私は何と言うべきか困り、毛先に指を絡ませた。

「盗み聞きなんかしてごめん。ちょうどキルアを探してて、出て行くタイミングがなくって」
「オレを?」

キルアは意外そうな声をあげ、一瞬だけこちらを見たが、その視線はすぐにゴンたちに戻された。

「何回も助けてもらったのに、御礼言ってなかったから」
「いーよそんなの」
「良くないよ、助けてもらわなかったらきっと死んでたもん。ありがとう」

御礼を言っても彼はこちらを見はしない。それどころか、プイと顔を背けられてしまった。
続けて良いものか迷ったが、再び口を開いた。

「それで、聞きたいんだけど」
彼の拳に力が入ったことが分かる。
「どうしてそんなに助けてくれるの?」

問いかけると、キルアは私を振り向いた。その目は驚きに丸められ、きょとんとしている。
私もその反応が意外で、同じようにきょとんとしてしまった。

「……聞きたいことって、そっちかよ」
「えっ? 他に何?」
「……家のこととか……いや、なんでもない」

またしても顔を逸らされてしまう。彼の視線の先では、ゴンがネテロに飛びかかっては躱され、頭を打っていた。

「別に理由なんてねーよ」
頬杖をついたまま彼は言う。
「お前があんまり弱っちいから、気になっただけ」

キルアはそう言うと、ゴンと交代してネテロに向かっていった。

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